あと5分 -intro-

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あと5分 -intro-

目の前にある光景と腕時計を交互に見やる。もう何十回、いや何百回とそれを繰り返した。本当にうまくいくんだろうか。テディに教わった事に忠実に私は爆弾を作った。 「俺が作った方が手っ取り早いぜ」 テディはそう言った。その通りかもしれない。だが、これは私自身の手で作る事に意味があった。そうしなければならないのだ、と突っぱねた。とはいえ、今頃になってやはり彼に作ってもらうべきだったかと思い始めた。そもそも自分がやった事が正しい事なのか分からなくなってきた。テディも同じ事を考えていたのか、爆弾を作っている最中の私に声をかけてきたっけ。 「あんた、本当にやる気なのかい」 珍しく優しい口調だった。その時の私にはいまいちその口調が気に入らなかった。これから馬鹿な事をしようとしている子供を諭す教師の話しぶりに似ていたからだ。 「なあ、考え直したらどうだ。俺がこんな事を言うのも何だがよ。早まらない方がいいんじゃないのか」 私は作業の手を止めて彼を睨んだ。が、短い期間とはいえ刑務所に服役した事のあるテディには何の効力も無かったようだ。 「あんたには似合わねえんだよ。こんな事は、な。憎しみだのなんだの綺麗さっぱり忘れて前に進むべきだ。そう思わねえか。えーっと」 「アラン」私は初めて会った時に口にした名前をもう一度答えた。「アラン・スミシーだ」 果たしてテディは本気で私の名がアランだと信じたかは分からない。詳しい者ならアラン・スミシーの名前の意味は分かる。テディはもしかしたら分かっているかもしれない。が、深く追及する事には何のメリットもないと思ったのか、テディは話を続けた。 「もう一度ようく考えてみなよ。これから自分がとんでもない事に手を染めようとしているって事をよ。今までの暮らしが一瞬のうちに遥か彼方に吹っ飛んじまうんだぜ。誰も助けちゃくれねえ。悪いが俺もあんたの力にはなれねえぞ」 らしくない事を言ってくれる。だが、私は既に決心していた。誰に何を言われようとも、これから成し遂げようとしている事から逃げるつもりはない。テディに向けて首を横に振ってみせた。テディは深く息を吐くだけで、それ以上は何も言わなかった。そして、私は爆弾を完成させた。腕時計を見やる。あと5分。あと5分で全てが変わる。私の人生もここから新しい道が切り開かれる。思わず肩を揺らす。さて、どうなるか。ゆっくりと見物させてもらうとしよう。私は窓に近づいた。もうすぐ。もうすぐ何もかもが変わる。それを見逃すまい、と思いながら。
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