機憶の彼方の君へ

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 本当に色々大変なことがあったけど、今思うと、いい思い出かもしれない……  こんなことがなければ、彼とも出会うことがなかったわけだし。 「ただいま」 「あ、パパ、おかえりなさい」  夫の声に、はっと我に返った。時計を見ると、もう昼過ぎになっていた。昼食の支度はまだできていなかった。急いでまな板を出し、野菜を切り始めた。 「いや、今日は本当に暑かった、こんなネクタイしていくもんじゃないよ。汗でびしょびしょ」 「早かったわね、今日の面接はどうだったの?」  夫は今のシステム会社を辞めて、転職活動中だった。昔から興味のあったゲーム開発をしてみたいらしい。 「うまくいった、新しいゲームシステムの企画書も一緒に提出したのがよかったみたいで、すぐにでも来てほしいと言われた。早ければ、来月から出社することになるかな」 「本当に? おめでとう! あなたの夢が叶ったわね。 ……それにしてもこんな就職難の時期に転職を考えるなんて。どういう風の吹きまわし? しかも、よりによって、あのバイゼル社に応募するなんて」 「決まっているじゃないか」 「……? え、何が?」 「君をこれから守りに行くためさ」
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