機憶の彼方の君へ

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 ミーティングも終了し、いよいよLDH日本予選本番。 「それじゃ、みんな、ゴーグル被って、ログインしてください。優勝を……つかみ取りましょう!」 「おう!」 「がんばる」 「イエーイ」  思い思いの掛け声を最後に、仮想空間に没入していった。  一瞬の暗闇の後、目を開くと一面に緑の樹海のような風景がひらけてきた。小鳥がさえずり、木々の隙間からは木漏れ日が落ちている。後ろから波音が聴こえてきたので、振り返ると、木々のトンネルの向こう側に、静かな海が見えていた。  日の当たる場所には南洋の花々が咲き誇り、色を添えていた。 「あの小鳥に見える花は……ストレリチアだな。このシーズンには持ってこいのダンジョンだね。運営もがんばってる」  横を見ると、鳴海先輩がいて、笑顔で話しかけてくれた。そう、なんかロマンチックな気分になってしまう。現実でもこんなところで二人でデートできたら……なんて妄想してみるけど、今はダンジョン攻略に集中しないと。 「ここからだと、森の奥に遺跡があるみたいだ。まずはそこの探索から始めてみよう」  メンバーに指示を促すと、森の奥へ奥へと、足を運んでいった。途中、彫刻の施された石が何かの暗号のように配置されていたけど、誰も気にも留めず、まっすぐ目的地に進んでいった。  私は見るものすべてが珍しく、辺りをキョロキョロとしてばかりだった。 「あれなんだろ?」  円筒状の丸い石積みを発見した。 「……井戸かな?」  私はパーティの編隊を少し離れ、その石積みに近づき、中を覗いてみた。真っ暗でよくわからない。でも一瞬キラリと光る輝きを見つけた。 「今何か光った……」  もう少しよく観察しようと、頭を奥まで突っ込んでみたら、重心が上体にいってしまい、バランスを崩してそのまま井戸を真っ逆さまに落ちた。 「きゃあ!」  ドシンという音とともに、暗闇の中でしりもちしてしまった。 「あいたた、またやっちゃった、私ってなんでこうドジなんだろう……」  落ちた先で目を前にやると、洞窟内には小さな湖があった。井戸からこぼれてくる光が反射し、水面は綺麗なエメラルド模様に輝いていた。 「綺麗な湖……あれは……」  湖の中央に輝くものがあった。よく見ると、それは剣のようだった。 「ひょっとして、あれがマーメイドソード?」  おそるおそる湖の湖畔を歩いてみる。思ったより、深くないみたい。一歩ずつ慎重に近づいていった。剣の前まで来ると、じっくりと観察してみた。  緑色の流線形の刀身、(つか)のところには、人魚の文様が刻みこまれていた。 「……間違いない、これがマーメイドソード」  水面に突き刺さったその剣の柄を両手で強く握りしめ、思い切り引き上げると、難なく引く抜くことができた。  剣先を上に向け、腕を前に出し、その剣をしばらく眺めていた。  すると、目前の水面がかすかに揺れたかと思うと、次第に波紋は激しくなり、ザザザという音ともに、大きな水しぶきを上げた。
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