機憶の彼方の君へ

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 その後は二人とも無口のまま、ゲームをログアウトした。  日本予選突破が確定し、部のみんなで祝杯を挙げた。鳴海先輩も何もなかったかのように喜び、部員達をねぎらっていた。  翌日は海水浴の日だ。私は海に行くべきか、行かないべきかで悩んでいた。昨日の先輩の言葉……あれは何だったんだろう?  私が思い悩んでいるのに気づき、先輩が声をかけてきてくれた。 「あやめちゃん、どうしたの? 昨日から元気ないみたいだけど」 「え? それは昨日先輩が言ったことが気になっていて……」 「僕が何か言ったかな?」 「……海に行っちゃだめだって」 「そんなこと言った? 覚えがないけど……せっかく来たんだから、一緒に海行こうよ」 「……行ってもいいんですか?」 「もちろん」  ニコニコを笑って返事をしてくれる先輩。 「うん、じゃあ行きます!」  さっそく水着に着替え、みんなと海岸に赴いた。ビーチボールで遊んだり、砂浜で貝殻を拾ったり、水辺で戯れたりしているうちに、あっという間に日が暮れてきていた。 「みんな、そろそろ帰ろうか」  帰り支度をしている時、あることに気づいた。 「あれ、私のお財布……どこだっけ?」  よく考えたら、ビーチマットの上に置いたままだった。ビーチマットはどこに行ったのか、辺りを探していると……海のほうに流されている! 「どうしよう、私の全財産が入っているし、取りにいかないと。すぐ目の前だし、大丈夫かな」  ビーチマットに向かって、海の中をゆっくりと歩いていった。すぐ手前まで来て、ビーチマットに手をかけたところで、急に足が届かなくなった。満潮(みちしお)で、思ったより海面が上がっていた。  驚いて思いきり、もがいてしまったら、海水をいっぱい飲んだ。  溺れる……そうだ私、泳げないんだった……  気が遠くなる……  …… 「あやめ!」  …… 「あやめちゃん!」 「え?」 「気づいた?」 「あれ? 私……」 「よかった、危うく溺れるところだった」  鳴海先輩が目の前にいる。 「びっくりしたよ、フラフラと海のほうに向かっていくから。すぐに捕まえて引き戻したから、よかったけど」 「ああ、私お財布をビーチマットに置き忘れて……それを取りに行こうとして」 「財布ならあるよ、ほらここに」 「ありがとうございます。本当私、何から何までだめだめで……ごめんなさい」  涙があふれたきた、もうどれだけ先輩に迷惑をかければ気が済むのだろう。 「そうだね……君は僕がいないと、本当に生きていけないかもしれない」
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