機憶の彼方の君へ

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「それじゃ、ママ行ってきまーす」 「気を付けて行くのよ、海は危ないからね」 「大丈夫、みんなと一緒と行くから平気よ」  中学生の娘も夏休みに入り、今日は学校の友達と海水浴に出かける。梅雨も終わり、空は透き通るような青を描いている。  玄関で手を振って見送りすると、家の中に戻り、キッチンの片付けをしている時に、ふと頭をかすめることがあった。 「……この頃になると、よく思い出すわ。あの夏の日のこと」  耳にかかる髪を右手でかきあげ、遠くを見つめるように、若い頃の記憶に想いをはせた。 「高校生の頃、私も海に夏の合宿に行ったな……」  夏の合宿といえば聞こえはいいけど……私の所属していた部活はVRMMO部。当時かなりのオタクだったので、高校にVRMMO部があるのを見つけて、すぐに入部した。   「本日からお世話になります。あやめです。よろしくお願いします」  私以外に女子の新入部員が三人、男子ばかりの部活動かな?と少し心配だったけど、同級生の女の子がいてくれたことが、うれしかった。 「ああ、あやめさん、よろしく。僕は部長の鳴海(なるみ)です。よろしく」  鳴海先輩は明るい笑顔で迎えてくれた。前髪の隙間から見えるキリッとした瞳の輝きが魅力的だった。 「あやめさんはVRMMOの経験はあるのかな?」 「はい、色々やってました。でも最近は……やっぱりバイゼルのレジェンドダンジョンヒストリーです!」 「通称LDH、鉄板だよね。ちょうどよかった、うちの部も主力ゲームはLDHなんだよ」  LDHは5年以上続く、人気のRPG VRMMO。常に新技術を取り入れながら、バージョンアップを繰り返していた。 「LDHは世界大会も開催されるし、うちの部でも複数パーティで参加予定なんだ。そのための強化合宿なんかもやってる」 「すごいですね、どんなところでやるんですか?」 「いつもは近くのホテルとか借りたりするんだけど……部屋に籠もりきりになるのもよくないから、今年は健康的に海でやろうと思っている。僕の叔父が海の近くに別荘を持っているので、夏休みにそこに行く予定。LDHの日本予選が夏にあるから、大会参加に合わせて合宿の日程も組むよ」 「海ですか! いいですね。もちろん……遊びもありなんですよね?」 「そうだよ、夜はゲームの大会参加。そして昼はみんなで海で遊んじゃおうって計画!」 「えー、どうしよ? 水着新しいの、買わないと」  新入部員の他の女子たちも顔を赤くしてキャーキャー騒いでいた。 「それじゃ、これからよろしく。わからないことがあれば、先輩たちに色々聞いてね。みんなそれなりに手練れが揃っているから、攻略方法は教えてくれるよ」
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