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夜明けと後日談
○●
真夏の早朝、足抜けを囁かれた『はと錦』の音々花魁の体が見つかった。
枯れそうなお堀の内、夏草に隠されていたのを鳥の群れが知らせてくれた。
賊にお店に火をつけるとでも脅されていたのか、または何か秘密を握られていたのか、残されていた襦袢の懐から、ひとりで終いにしようとし、返り討ちにされた事が伺われる走り書きが見つかった。
『わっちの一等大切なものを守るために、捧げるしかなかった。告げたら全てが壊されていた。持ち出せと言われたので、着物と玉石を持っていく。それでも、わっちの一等大切な左手を攫うかもしれない。一人でなんとかやってみせる』
同じ日に、小さな神社で同じお店の、下働きの子供の亡骸が見つかった。
小さな頭を百石階段で割ってしまった、不慮の事故。
懐いていた花魁の着物を着ていたことから、彼女を探し回っていた際に足を滑らせてしまったのだろうとなった。
一足違いで哀れ、と皆は考えた。
ただ、ただ、不思議なのは、下働きの子供の口から、八つの貴石が出てきたこと。
神のお慈悲と、死んだ子供の口から出たその貴石で、花魁と共に手厚く葬られた。
もっと、もっと不思議な事は、小さな神社の廃れた賽銭箱から、貴石がわんさか出てきたこと。
これには、『はと錦』の雇われダンナ様が、お店から盗まれたものだと取り返しに行ったらしいが、一度、神に捧げた事に少々気が引けたのか、その貴石で神社の手入れを行った事、それから、牙の欠けた獅子に牙をつけ、角を無くした狛犬に角を授けた事には、なんら意を唱えなかった。
花魁を強請り殺し捨てた賊については、誰も知らない。
あらかたどこかで神罰を喰らったことだろう。
お仕舞
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