叢雲

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 むかつく。  母ちゃんは俺のこと未だに子ども扱いするし、父ちゃんは今ひとつ一人前に見てくれない。そりゃ、いつまでたっても俺がチビだからしょうがないのかとも思うけど、もう十四歳だぜ。父ちゃんが船乗りになると決めたのって、俺くらいの時だって言うじゃん? もうちっと、なんとかならないのかな……。  父ちゃんの商船が港に入ってきた。船止めの上に腰かけて待っていた俺に気が付いて、甲板に出ていた父ちゃんが手を振る。父ちゃんの名はセイラン。ここ、(おう)の国の港ではちょっと名の知れた商船の船長だ。ここらで「セイランんとこの倅」って言ったら、色んな人に何かと気を遣ってもらえる感じ。それも、最近は気に入らない。 「おう! テン! こっち来てたのか!」  父ちゃんは係留の綱を投げてよこした。綱を拾って船止めに掛けながら、無言でうなずく。見ればわかるじゃんよ。なんで、わざわざ言うんだよ。舷梯がおりきるのももどかしそうに駆け下りてきた父ちゃんは、すっげ笑顔で俺の頭をワシワシと撫でまわした。 「元気そうだな。しばらく、こっちにいるのか?」  チビを思い知らされるから、それ嫌いなんだけどな……。 「うん……」 「どうした? カプリと喧嘩したか?」  喧嘩した……つうか、ちょっと度胸試ししたら、めっちゃ心配されてうんざりしたんだ。母ちゃんの過保護は悪気がないから困るんだ。最近、一緒にいると息が詰まる。でも、それ言ったら絶対母ちゃん、滅茶苦茶落ち込むから……もっとメンドクサイので言えない。んで、このタイミングで気晴らしに父ちゃんの船に乗ったら、きっと母ちゃんが様子を見に来る。んなことされたら、ますます気まずい。やべーな……詰んだわ。  言葉にできないモヤモヤを抱えて、虚空を睨んでたら、父ちゃんが苦笑してそっぽを向いた。 「(あけ)の国からの積み荷を納入するから、お前もついてこい」 「うん……」  どうしたものか、我ながら情けなくなってくる。
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