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全身黒ずくめ。真っ黒のフード付きマントを羽織っているので、表情は分からないが、多分、超絶不機嫌。腰に手を当てて仁王立ち。肩には、でっかい白い鳥が留まっている。
「……何度見ても、すげー既視感だな、おい。……ちょっとちっちぇえけど」
「ええ、まぁ……」
父ちゃんとコガネ親方は、苦笑いして顔を見合わせている。黒ずくめはますます憤慨したという風で、顎を上げて文句を言った。
「ほんと、失礼ね! 誰かのお守りなんてまっぴらごめんって言ってるのよ!」
お守り……って、こいつ、背格好は俺と変わりない。それも、声からして……女の子。
「こっちは、俺の倅でテンという。陸での旅慣れはしてないが、ちゃんと色々仕込んであるから、足手まといになることはないと思うぞ」
黒ずくめの抗議を受け流して、父ちゃんが俺を紹介する。俺は立ち上がって頭を下げた。黒ずくめは、俺の方を一瞥するような仕草をすると、腕組みして小首をかしげた。
「わたしはフレア。玄の民。こっちからの積み荷を預かって玄の国に帰る予定なの。行程二週間くらいの長旅になるんだけど、……大丈夫? 途中で引き返すなんて、できないわよ」
玄の国っていうと、ここからずっと北にある山奥の国だ。ところで、こいつ、なんでか上から目線。長旅、冒険は魅力的だが、こいつと一緒? 二週間も? 一気に気分が駄々下がりだ。
その時、フレアの肩に留まっていた白い鳥が、大きく翼を広げて二、三回羽ばたいた。
「我名はシロガネ。フレアからは『じい』と呼ばれておる。フレアは世間知らず故、少々口が過ぎることがあってな、いやな気分にさせてしまったのなら申し訳ない。旅の仲間はおる方が楽しい。セイラン殿の倅殿ならば、喜んで同行をお願いしたいところ」
鳥が、しゃべった? びっくりして、父ちゃんと親方の方を見る。二人とも、何の不思議があろうかという顔をして、こちらを見返す。フレアは、やれやれといった風で肩をすくめて首を振った。
「厳密にいえば、独りってわけでもないから、大丈夫だって言ったんだけどね。じいもこう言ってることだし、いいわよ、一緒でも。ま、母たちからあなたのこと聞いてて知らないわけじゃないし。もしかすると、母たちもあなたに会えたら喜ぶかもしれないし」
え? 俺は、今初めてこいつの存在を知ったんだけど? つか、父ちゃんの顔が広いのは知ってたけど、玄の国に知り合いがいたのは知らなかったし、こいつの母ちゃんが俺のこと知ってるって、一体どういうことだ?
「ま、テン……だっけ? よろしくね」
フレアが右手を差し出してきた。慌ててこちらも手を差し出して握手する。皮手袋の感触以外、何一つ分からない挨拶だった。
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