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3 考察
しかし……これは想定の範囲内だろう、
と私は思った。
そうでなければ、そもそもヴォラクが
発表者に選ばれることはない。
どんな悪事にもやむをえぬ原因がありうる、
と考えることは大事だが、
どんな美談や悲話のウラも疑ってみる、
というのも均衡ある、健全な態度といえよう。
ヴォラクもその姉妹種族アミーも、
理事種族の中では秩序の破壊者、
帝国政治のかき回し屋として知られるが、
本物の反社会的種族ではもちろんない。
とんでもない掟破りをしながら、
それ以上に良い結果を出して見せ、
他の種族を悔しがらせる一方、
時には派手につまらぬ失敗もやらかして、
仲間達をさらに頑張らせてしまうのだ。
彼女達は海豹に似た
両生動物から進化した種族だが、
非常に強健・知的な資質に加えて、
実は真面目な性格を持っている。
しかし、そのことを裏から見れば、
他種族の力量不足ゆえに
より良い政策が導入しにくいという、
不満を堪える立場でもある。
そこで、時には危険あるいは不謹慎な冗句で
自身の緊張を和らげたり、
他種族の向上を求めたりしているのではないか、
といわれている。
実際、今回の問題発言にしても、
今の政治や民度の水準を考えれば、
国家の信頼を損うような
醜聞に至ることはないだろう。
むしろ、交戦国の通謀による
淘汰などという恐ろしげな〝疑惑〟が、
腐敗、衆愚化や無責任な他責に陥りがちな
多くの種族の自戒を促したり、
人々に〝啓示の王〟の苦悩を
我が事と感じさせたりすることで、
平和の維持や強化に資するだろう、
というのが私の予測だ。
やんちゃな双子の臣下種族に対し、
我等が〝最後の皇帝〟はというと、
巷では〝天使な魔王サタンちゃん〟(笑)
と呼ばれるほど、善良で心優しい種族だ。
彼女は何と〝旧帝国〟の時代から、
『あるまじき〝戦争の効用〟』などというものを
全て残らず分析・公表したうえで、
それらを不要とする人道的な政策を訴えて、
自らの手を縛っていたお人好し、
馬鹿がつくほどの正直者でもある。
もし通謀があるとすれば、
戦前から忠臣サタンのもとに大量亡命し、
指導も行っていた〝先帝〟からの亡命者と、
人形遣いの〝啓示の王〟あたりだろう。
ただし万一、そんなことがあったとしても、
全てが直ちに公表されるかは分からない。
また、当時における淘汰の容認を批判して、
今の平和的な政策との矛盾を突いたとしても、
『では君なら他にどんなことができた?』とか、
『今後もそれを繰り返すのか?』と問われると、
どこの種族であっても『いや、それは……』と
返答に窮してしまいそうなのが、恐いところだ。
そもそも淘汰のための陰謀・通謀だろうが、
偶然・誤算だろうが、まあその間をとって
機会の利用や泳がせ後の対処だろうが、
私達一般人にとってはあまり違いがない。
まず戦争を起こすかどうかの決定自体は、
より大きな社会情勢に左右されるのだし、
ひとたび大戦争が起きてしまえば、
多くの種族への惨禍は避けようもない。
私達ができること、すべきことといえば、
技術が進めば社会や政策はこうなり、
それを繰り返すと全体がこうなっていく、
という文明の大きな流れを知ったうえで、
普段から前もって争いを防げるよう、
様々な政策の提案や改善、活用に関わり、
社会全体としての生存・発展確率を
上げていく努力ぐらいだろう。
その意味で新国家が、
〝モノの生産・安全と配分・投資だけでなく、
ヒトの向上・支援と活用・参画も重要になる〟
という文明の潮流を理解したうえで公開し、
新技術により人々の健康や教育も高めながら、
民主化や自由化を進めているのは有難いし、
私達もぜひ、その機会を活用したいものだ。
……私を含む人類が量子人格化してから、
かなりの年数がたったが、
星間社会でも政治というものは奥深く、
この帝国では程良く面白い。
ところで〝啓示の王〟についていえば、
他者への愛などといっても、
しょせんは自己愛の拡張にすぎない、
という冷めた見方もできる。
とはいえ人は誰しも、何か自分に
関係があるから愛するのであって、
自分と全く無関係のものを愛したら、
むしろ気持ちが悪いだろう。
だからこそ、せめて今後は皆の愛情が、
どこかで遮られることなくお互いを向き合い、
全ての人々のための政策に活かされて欲しい。
……私は切に、そう願っている。
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