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【第二話 メイルとの約束】
翌朝メイルが目を覚ますと、隣りに寝ていたはずのランが居なかった。
「あれ? どこに行ったんだろう」
探すと、庭の花壇のそばでうずくまっているランがいた。
メイルは安心して声をかけた。
「ラン、おはよう。どこに行ったのかと思って心配したよ」
「すいません」
振り返ったランの腕には子猫が抱かれていた。
でも、すぐに謝ってしまうランにメイルは少し呆れた。
「私は何も怒ってないよ。それより、その猫どうしたの。昨日の猫?」
「はい」
それは茶色いトラ模様の猫で、前足を怪我しているのがわかった。
「怪我しているのね」
「はい」
「じゃ、後でドーリに言って手当してもらいましょ」
「はい。ありがとうございます」
「ランはその子が心配で庭に居たの?」
ランは頷いた。
「そう」
メイルは「どうして?」と聞こうとしたが、昨夜ドーリに問い詰める様な言い方はしない方がいいと言われていたので、それ以上聞くのはやめた。その替わり、「はい」か「いいえ」で答えられる聞き方をした。
「猫が好きなの?」
ランは首を振った。そして小さな声で言った。
「死んじゃうかも知れないと思ったから」
「そうね。それは有り得るわね」
ランは頷いた。
その時メイルは思った。
ランは自分自身が大変な状況なのに、それでも子猫を思いやる事ができる。ひょっとしたら、すごい胆力の持ち主なのかも知れない。
その時、召使のドーリが部屋に入って来た。
「メイル様。お食事が出来ましたので呼びに参りました」
メイルはドーリに子猫を見せた。
「ねえ、ドーリ。この猫ちゃんの手当をしてくれないかな」
ドーリはしげしげと猫を眺めると
「はい、わかりました。お任せ下さい」
と言って、ランの腕から猫を受け取った。
メイルはランに自慢げに話した。
「ドーリはすごいんだよ。何でも出来るんだから」
「メイル様、からかうのはお止めください」
「からかってないよ。本心だもん」
「それは嬉しゅうございます。それよりも、お食事にいらしてください。あと、ラン様もご一緒にどうぞ」
メイルは目を輝かせた。
「え、ランも一緒にいいの?」
「はい、昨晩シャルル様にはお話しておきましたので」
シャルルとは、メイルの父親で、シャーマンの最高権力者だ。
「わあ、ありがとうドーリ。でもどうして? どうして大丈夫なの」
メイルがそう聞いた理由は、奴隷が家主と一緒に食事をする事は考えられない事だからだ。
ドーリは答えた。
「ラン様はしばらくメイル様の遊び相手として置く事にいたしましたので」
「ホント? やったあ、ランと一緒に居られるんだね」
「はい。ですから、お食事に行って下さい。皆様お待ちですよ」
「うん。ラン、行こう。パパとママを紹介するよ」
メイルはランの手を引いて食堂に向かった。
食堂に行くと、父シャルルと母コンキリエが既に席についていた。
メイルは先ず、いつも通りの挨拶をした。
「お父様、お母様。おはようございます」
父シャルルは答えた。
「おはよう、メイル。その子が新しお友達だね。名前はええと」
「ランよ」
メイルが紹介した。
ランは緊張しているのか、身動き一つできなかった。何せ、家主の食事の場所に来ると言う事自体始めての事だったからだ。
メイルは続けた。
「お父様、ランを置く事を許して下さり、ありがとうございます」
「いや、ドーリから聞いてね。私も妻も色々忙しくなるし、メイルの話相手が必要だと思っていたからね。だからちょうどいいと思ったんだ」
父シャルルはそう言った。
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