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しかし、母コンキリエは憮然とした表情だった。
それを察したのか、シャルルが続けた。
「まあ、我々シャーマンは身分で人を区別しないのが信条だ。奴族であろうが、皇族であろうが、メイルにとってよければそれでいいんだ」
それを聞いた母コンキリエは吐き捨てる様に言った。
「でも、奴隷は奴隷です。メイルの話相手としては、私は反対です」
「まあ、長い目で見てやってくれ。今日は始めての食事だ。さあラン君。席に付きなさい」
その時、突然母コンキリエが立ち上がった。
「今日は気分が悪いので、私はいりません」
そして、ランを睨みつけて、食堂から出て行った。
蔑まれる目線になれていたランだったが、コンキリエのそれは心に突き刺さった。
メイルは
「ごめんね。ママちょっと体調が悪かったみたい」
と言ったが、ランは居たたまれず
「ごめんなさい」
と言った。
それを聞いたメイルは堪りかねて言った。
「ねえラン」
「はい」
「一つだけ約束して欲しいな」
「あ、はい」
「私に対しては『ごめんなさい』は禁止。いい?」
「はい。でも……」
「だって、ランはここに来てから一つも悪い事してないよ。なのにすぐ『ごめんなさい』って、変だよ。それに、何か距離を感じちゃうんだよね、そう言うのって」
「距離、ですか」
「うん。あと出来れば丁寧語もやめて欲しいんだけど、まあ、それは後でいいや。とにかく、私とランは友達なんだから、距離を縮めたいの」
父シャルルはそれを聞いて笑った。
「ハハッ、それは面白いね、メイル。ラン君、約束出来るかな?」
ランはゆっくり頷いた。
「はい」
「じゃ、食事にしよう。コンキリエは席を外したが、そのうち分かってくれるよ」
そして、ランはドーリに促され、食事の席についた。
ランにとっては、生まれて始めての人間らしい食事だった。
「いただきます」の後、ランはスープを慣れない手つきで口に含んだ。
(わあ、おいしい)
そのあまりの美味しさに、スプーンの動きが止まらなくなった。
メイルとシャルルはそれを微笑んで見ていた。
ついでに言っておくが、この時のランの食べ方はひどい物だった様で、後でドーリにテーブルマナーをがっちり叩き込まれるハメになったのは言うまでもない。
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