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「うんれつさん起きてください。うんれつ……、いい加減、起きろ! う、ん、れ、つ!」
「ど、どうした。ま、魔物か!」
「ちがいます。まったく、寝ぼけちゃって。魔物は七十五年前の秋いらい襲って来ていません。今は平和そのものです」
心地よい睡眠を邪魔され、さらにあじゅりの、のんびりとした口調がしゃくにさわったうんれつは、すぐにむかっ腹をたてました。
「だったら、起こすんじゃねぇ!」
「…………」
あじゅりのやつ、また黙ってしまいやがったと思いながらうんれつは面倒くさそうに聞きました。
「どうした、悪い夢でも見たか?」
「ちがいます。朝からずーと考えていて、ずーと、悩んでいたんです」
「またかよ。寝れなくなるから、くだらないことを考えるなって何回も言ってるだろうが」
「私はくだらないことなど、今まで一度も考えたことはありません!」
「そうか、そうかよ。それじゃ、お前が入っているその小汚い石像が風化して砂になるまでずーっと、考えてろ!」
「……」
真上から煌々と照らしていた満月が、鳥居のうえに移るまで、あじゅりが先に声を出すのをじーっとがまんして黙りこんでいたうんれつは、遂にしびれを切らしました。
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