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「わかった、わかった。夜中に起こしてまで、話をしなければいけない重大なことなんだな。わかったから早く言え。気になって俺まで寝れなくなったじゃねえか」
少し経ってからあじゅりの心底疲れたような声が返ってきました。
「ごめんなさい、うんれつさん。寝れなくさせてしまって。じつは、あの気の毒な奥さんのことが気になって気になって、忘れようと思っても頭から離れないんです」
ちぇ、またかよと、うんれつは心のなかでつぶやきました。
あじゅりは参拝にくる人間の願いごとに聞き耳を立てては、自分のことのように心配しては悩み、苦しんでいたからです。
うんれつは、俺たちの仕事は参拝にくる人間の願いをかなえることじゃない、この神社を守ることなんだと、何度も言い聞かせてはいましたが、それでもあじゅりの心配事はつきませんでした。
「奥さんって、どの奥さんだ。宝くじが当たりますようにって、最近ひんぱんに参拝にくる髪をくしゃ、くしゃにしたかあさんか?それとも、……夫が出世して、一日でも早く一戸建ての家に住めますようにって、毎年三月ぐらいになると必ず願い事をしにくる気の強そうな奥さんか?」
「ちがいます!」
「ふん、わかってるよ。雨の日も雪の日も欠かさず参拝にきては、ミサっていう十歳になる娘の病気が早く治りますようにって、祈願しにくる奥さんだろう」
「あれ、うんれつさん、よくわかりましたね。どうしてわかったの?」
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