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深いため息がひとつ、うんれつの石像から漏れました。
「あじゅりさんよぉ。確かにそれができたらあの奥さんの願いをかなえることができるかもしれない。しかし、いいか、よく聞け。……まず最初に、あの面倒くさがりやの祭神が俺たちを自由に動き回れるようにしない。お前も知ってのとおり、自由になったのはこの百年のうち、後にも先にも一度きりだ。この神社が邪悪な気で覆い囲まれ、その後に魔物が襲ってきたときだけだ。その魔物と戦わせるためだけに俺たちを動けるようにした。それも、しぶしぶだ。必死に戦って魔物を退散させたあと、祭神は俺たちをどうした?」
「狛犬の石像に戻しました」
「そうだ。休む間もなく、祭神はまた、俺たちを石に封じ込めた。そんな祭神が簡単に、はいそうですかと、俺たちを自由にさせると思うか?」
「あのときは本当に大変でしたよね。死ぬかと思っちゃいました」
「それから、余命いくばくもない重病人を一瞬にして健人によみがえらせるとまで噂される幻のくすり、天花神薬。そう易々と手に入るはずがない。あの寝てばかりいる祭神が持ってると思うか?」
「そうですねぇ。貴重なものって、数が少ないんですよねぇ」
「無理な最大の理由、祭神が今だかつて参拝する人間の願いを聞き入れて、かなえてあげたことなど一度もない。少なくとも俺は一度も見たことがない。そんな祭神が心を入れ替えて人間のために一肌脱ぐなんてことは万が一にもない」
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