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2. 祭神あらわる
あじゅりが思わず叫び声をあげてしまったのも無理はありません、いつのまにか二匹が顔を向けている鳥居の下に、白い衣を着た祭神が幽霊のようにボーと立っていたのです。
「だれが、怠け者じゃ、だれが、詐欺師じゃ。答えよ! うんれつ」
祭神は普段どおりの眠たそうな表情をしていましたが、発せられた声は一瞬にして心を凍りつかせてしまうほどの恐ろしい声でした。
張りつめた冷気のなかで、一触即発の沈黙がしばらく境内を支配していました。
――ザ、ザ、ザー――
雪の重さでしなった大木の枝から雪がなだれ落ち、バシ、バシ、バシと枝が一斉に跳ね返ったその時、興奮したうんれつの声が爆撃弾のように響き渡りました。
「それじゃ、はっきりと言わせてもらおう! 祭神、あんたはなぁ!……」
今度は動揺したあじゅりの声がうんれつの大声に重なります。
「うんれつさん、やめて下さい。祭神さま、私が悪いんです。私が暇にかまけてつまらない考えをうんれつさんに言ったばっかりに、……うんれつさんをはやし立てたのは私です。ごめんなさい、祭神さま、ごめんなさい……う、う、うぇ~ん」
早口で一気に話したあじゅりの声は完全に裏返り、あとは泣き声と鼻水をしゃくり上げる音が交互に続きました。
でも、口を開けた狛犬の石像からは涙も鼻水も流れてはいません。
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