織田先生はなぜ授業参観を休んだのか

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"織田先生からの証言"  妻とは七歳の歳の差がある。以前勤務していた学校で出会い、私のほうから告白し、私のほうからプロポーズをした。  しかし私は、妻を顧みず仕事をし、見限られてもしょうがないとまで思っていたが、そんな私を彼女は献身的に支えてくれた。  そして、授業参観日の前日の夜。  仕事から帰った私は、妻に話があると言われた。  私はおとなしく妻の前に座り、言葉を待つ。そして妻から衝撃の告白があった。  子供ができた。その話を聞いたときに、私の心はこれ以上ないくらいに高鳴り、無意識に妻を抱きしめていた。  その日、私は胸の高鳴りを隠せないまま床に就き、布団の中で久しぶりの夜更かしをした。  翌日、授業参観日であるというのに私は寝坊をした。十分の寝坊だ。いつもは六時五十分に起きているというのに、あろうことかその日は七時に起床したのだ。  たかが十分と思うだろう。だが、私にとってその寝坊は教師人生で初めての寝坊だった。  私は朝食と身支度を済ませ、駅へと向かう。そして、一本遅れた電車へと飛び乗った。  そこでふと気づく。いつも見ている人たちではない人たちが電車に乗っている。一本違う電車に乗っただけでと思うかもしれないが、私はそのとき確かにそう思ったのだ。  そして、私は電車の席に着き、なぜか学校最寄りの駅には降りなかった。電車が次の駅、次の駅へと進んでいく。  私が降り立ったのは今まで下りたこともない駅で、周りは山に囲まれ、うっすらと海が見える土地だった。  すぐに戻ろうかとも思ったんだ。だが、なぜか、私の足はその土地をただ歩いていた。
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