織田先生はなぜ授業参観を休んだのか

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 振り替え休日の日には妻と一緒に産婦人科医院に受診しに行った。  エコーで妻のお腹の中を見てみると、本当に小さくはあるが、ちゃんと動いている心臓が見えた。私は二日ぶりにまた泣いてしまった。私につられてか、妻も目に涙を浮かべていた。  そして、私は思った。自分に子供ができてやっと理解できた。  倫理の教師として、生徒に手本とならなければと仕事に打ち込み、様相もきちんとしてきたが、本当に手本となるということはこういうことではないのだと。  子供には、そうやって固く、縛られて生きることを教えるのではなく、人として本当に大切なものをもっと自由に考えて、自由に生きてもらうのが一番なのだと。  それこそが、本当の倫理なのだと、私は思った。  今まで私が考えていた倫理より、さらに難題になってしまうが、きっと、それだけの価値がそこにあるのだ。      〇 「私が学校を休んだことで、学校はざわめき、あらぬ情報が飛び交っている。しかし、そんな中で君たちは情報の真偽を疑い、考え、真実のみを新聞に書き記そうとした。そして、それによって今まで居眠りばかりのぐーたらであった生徒が授業に集中できるようになった。私が今まで教えてきた方法よりも、今回私が休んだことのほうがはるかに得るものが多かったんだな」  先生はそう言って、初めて俺たちに微笑みを見せた。その微笑みは教師というより、父親の優しい笑顔と呼ぶべき微笑みであった。
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