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「先輩。今回の記事、どう書くんですか?」
理科準備室を出た廊下で進藤が岩上先輩へと尋ねた。
「そんなの決まってるじゃない。書くべきものを書くだけよ」
そう言い放った岩上先輩は一足先に部室へと帰っていった。その後ろ姿を美しいと思ってしまった自分を俺は悔しいと思っている。
「そういえばさ、岩上先輩が知っているお前の秘密ってなんだったの?」
進藤が俺のほうへ向いて手帳を構えた。
本当は話したくないが、まぁ、今の気分であれば別に話しても後悔はないだろう。
「俺が入学したてのころ、電車で痴漢の冤罪をかけられそうになったんだ。別の高校の女子高生に。もちろん全力で否定したけど、相手にされなかった。周りの人たちが俺を汚らしい目で見てくる中、岩上先輩が俺を守ってくれた『その子の右側にあなたがいたんだから、右手にスマホを持っているその子に痴漢ができるわけないでしょう』って。そのおかげで俺は助かったけど、その見返りに新聞部の入部を強制されたんだ。『入らなければ、このことに尾びれ背びれをくっつけてばらまいちゃうわよ』って脅されて」
俺は全てを包み隠さず話した。
しかし、進藤はなにひとつメモをとっていない。そしてただ一言。
「そんなことか」
そうつぶやいた。その言葉を聞いて、俺はクスっと笑って見せる。そして言い放った。
「ああ。そんなことだよ」
〇
その後、昇降口前の掲示板に我が新聞部の校内新聞が掲示された。
その内容はめんどくさいので省略させてもらうが、ひとつだけ言うことがあるとすれば、その新聞の影響で校内の疑惑の喧騒がお祝いの喧騒へと変わったということである。
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