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異変が起きたのは三時間目と四時間目の間のなか休み。俺が目をさましてから五分ほどたったときである。
織田先生が俺たちの教室に来ないのである。
もちろん、今は休憩時間であり、授業が始まるまでにはあと十分ほど時間がある。それでも、教室内はざわざわと騒がしくなり、クラスメイトたちは口々に織田先生の名前を口にしていた。
織田先生は何事にも準備万端である。いつも授業が始まる十分前には教室に入り、準備を整えている。その準備はいつも静かである。織田先生も、生徒も一言も発せず、静かである。授業前の休憩時間、教室内は決まって喧騒に包まれるが、織田先生の授業前だけは異質であった。
その異質が今日は訪れないという異変。
その異変は、教室内に入ってきた保護者へも伝染していった。保護者間でも、織田先生の存在は有名なのである。
「なんで織田先生がいないの?」
「なに?休み?ありえなくね?」
「えー休んだら殺されると思ってデート断ってきたのにー」
「あら、織田先生がいないのねぇ。いつも早く来すぎてるって話だったのにねぇ」
教室内が、織田先生の話で埋め尽くされる。
この間も、時計の針は順調に進んでいた。
〇
あと一分。あと一分である。授業が始まるまであと一分まで迫った。
ここに来て、教室内のざわめきがすっと消えた。決定的瞬間である。
無遅刻無欠席無早退。完全無欠な織田先生の記録が今、この瞬間、静かに崩れていった。
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