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その傑物加減は性格にも現れており、織田先生は常に硬派だ。怒りっぽいわけでもなく、怖い叱り方をするわけでもないが、銀縁メガネの奥の瞳は鋭く、それでいて妙な威厳を持っている。その威厳は、校舎裏にいるような不良たちでさえ押し黙るようなものだった。
織田先生が一日学校を休んだ。
それは学校全体の一大ニュースなのだ。
「うん。やっぱり調べましょうか。これを逃すなんて新聞部じゃないわよね」
あぁ、そうなりますか。この展開は何となく読めていた。学校全体、もしかしたら地域全体に轟くかもしれないとっておきのネタを、この人が逃すわけがない。
岩上先輩は席を立ち、そのまま俺のほうへ寄ってきた。そして、俺の両肩に手をかけると、俺の目と鼻の先まで顔をグイっと近づけてきた。
「ねぇ。今回の取材、私に協力してくれるわよね」
先輩は俺に協力を求めてきた。俺は体を起こして、その協力を全力で断る。
「いやです!イヤイヤイヤ。大体、俺は文字の打ち込みだけやってくれればいいって言うからこの部に入ったんです!なのに、なんで取材があるたびにどっかに連れていかれて散々こき使われるんだ!約束が違う!」
俺は岩上先輩に全力で抗議した。
もともと俺はあることがきっかけで先輩に無理やり入部させられたのだ。そんな活発に活動しなくてもいいから、データの打ち込みなどを手伝ってくれと言われて。
しかし、これだけで先輩が引き下がることはない。
「そんなこと言っていいのかなぁ……"あのこと"をバラされたら困るんじゃないかなぁ」
岩上先輩が俺の耳元でつぶやく。そのささやきで俺の全身の毛が逆立った。
それはまずい。非常にまずい。先輩が知っている"あのこと"が学校に知られれば、俺は学校にいられるかどうかわからない。
「先輩お願いします。そのことだけはどうか内密に……」
「じゃあ決めなさい。働くか、バラされるか、私の恋人になるか」
なぜ選択肢が増えているのか、そして増えた選択肢があまりにも強烈だったことはさておいて、こうなってしまってからの俺の答えは決まっている。
「わかりましたよ……働きます。えぇ、働きますとも。働かせてください」
こうして、俺は織田先生が学校を休んだ理由を調べることとなった。
「ちなみに、バラされるか恋人になるかだったらどっちを選ぶ?」
「前者を選びます」
俺は即答した。
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