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その日、事件が起きた。
といっても、そこまでの大事というわけではない。
だが、我々生徒にとって、ひいてはこの学校に関係する教師から保護者から要員さんから。そのような人たちにとってこの出来事はまさしく事件と言って相違ない。
これを読んでいる人たちによっては「恐ろしくどうでもいい」と言うだろうが、そんな方々には、これはあくまでも我々にとっての事件なんだとご理解いただきたい。
実はある日、倫理の織田先生が学校を休んだのだ。それも、授業参観の日に。
〇
授業参観が行われたのは七月の第一土曜日。休み返上で決められた参観日の朝は誰もが得をしない苦痛の朝であった。
「なんで授業参観が土曜日なんだ……どうせ、一・二時間しかやらないんだから、平日の午後とか使えばいいじゃん……めんどくさい」
俺は窓際の自分の席でただただうなだれていた。俺の席の前には、同じ新聞部の進藤の席がある。
進藤は俺のほうへくるっと向きを変え、背もたれに腕を置いて顎をのせた。机にふせっている俺と顔の高さが同じになる。
「しょうがないだろ?文句言ったところでどうにもならないんだしさ。それにお前だって、そんなこと言って学校に来ているじゃないか」
メガネの奥の瞳が、俺をあざ笑っているのがわかる。どこまでも芯が読めない男だ。
「進藤だってわかってるだろうが。今日の授業参観の科目は――」
今日の授業参観の科目は「倫理」だ。その科目だけでも小難しくてとっつきにくいというのに、加えて倫理の担当は"あの"織田先生。休めるわけがない。
「まぁそうだなぁ。俺でも休まないわな」
それだけ言うと、進藤は前に向きなおった。一時間目が始まるにはまだ時間がある。一時間目が始まっても時間はある。授業参観は四時間目。まだまだ時間はある。
ということで、俺は暖かい日の光を浴びながら、習慣の深い眠りへと落ちていった。
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