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私はお兄様のことを、何も変えられないままに王都の学校へ進学した。そして十七歳となり、ストレーリ子爵の跡目を継ぐ当主となるべく、この地へ帰ってきたのだ。
けれど状況は、何も変えられていない。
パパ……いいえ。お父様もお母様も、やはり、お兄様のことを認められない。メイドたちも、私のいうことは聞きすぎるほどよく聞いてくれるけれど、お兄様のことについては何も聞いてくれず、教えてはくれない。
食事の席にいるお兄様は、十歳の時の私が見たように、ガリガリに痩せていて、じっとうつむいていらっしゃる。食事は、野菜くずや肉がほんの少し残った骨。魚を食べないお兄様には、それしか与えられない。
(……お兄様)
十五歳の時。孤児院を訪問した私は領民たちの噂話を耳にした。
ストレーリ子爵家の極潰し、ストレーリ子爵家の恥晒し、ストレーリ子爵家のできそこない……。
思いつく限りの罵詈雑言と共に、お兄様は大変悪く語られていた。
噂を根気強く集めていくと、いくつか分かったことがある。
お兄様は、極度の人見知り。
そして、よく知らない人と会うだけで体調を崩す。
外にいるだけで知らない人の声が聞こえるらしい。
そんなの当然のことなのに、と、語られていた。
……ストレーリ子爵令息であるにも関わらず、お兄様は継承権を持っていない。私が次代の子爵としてストレーリの名を受け継ぐことを認められており、入り婿を取る予定になっていた。
屋敷の中にずっといるから、お兄様は真っ白な肌をして、とても痩せていらっしゃる。太ってはいないけど、この国の人にしてはなよなよしてて、モヤシみたいだ。周りを全部海に囲まれた島国だから、男性というと漁師や商船の乗組員がメジャーな職業。そのせいで、日に焼けた、元気の良い人が多い。
私とおいくつ離れているかは分からないけれど、お兄様はとても男の人には思えない。
だってとても小柄で、とても痩せていて……。
まだお兄様は、野菜くずしか食べられていない。
パンをなんとか都合してお兄様に渡したけれど、お兄様は悲しそうに首を横に振る。そしてパンは、小鳥たちのご飯になった。
食べさせてもらえないわけじゃなくて、食べられない?
どうしてそうなったのか、私には分からない。医師へ相談しようにも、お兄様のために私が動こうとすればするほど、メイドたちも両親も、私を注意して見守るようになった。
どうしたらよいのか、私は今も、答えを出せずにいる。
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