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中川とは大学のサークルも同じで、たまたま同じ英会話教室に入ったことで、よく話をするようになった。中川は、男性の俺から見ても、かっこいい。人を惹きつけるような雰囲気を持った奴で、華やかさもあり、俺とは真逆なタイプだ。当然、女子にもモテ、周りにはよく女性が取り巻いていた。
そんな奴だけど、気のいいやつだと俺は信じていて、何も疑うことなく話もよくしていた。そして、俺が立花さんに思いを寄せていることも、話の流れで知っていたのだ。
「あんまりさ、深く考えないで、告白しちゃいなよ」
軽いノリで中川そう言う。
「まだ勇気もないし、なかなかきっかけも掴めなくって」
俺は恋愛に慣れていないし、自分にも自信がなかった。
「きっかけなんて、何でもいいから作ればいいじゃん?」
「うん。それなんだけどさ、実はちょっと考えていて……。今度のウチの学祭に誘おうかなって思ってるんだ」
俺たちは、大学の軽音サークルで、学園祭でも一緒にステージでバンド演奏をすることになっていた。ちなみに、数名のメンバーでグループを組んでいて、俺はギターで中川はボーカルを担当。一番目立つポジションに立つのは言わずと知れた中川だった。
「お、それいいじゃん。誘おう誘おう!」
俺の必死さに比べ、中川はとてもお気軽な感じだ。
(よし! 決めた! 絶対、学祭に誘う!)
そう決心したのに、いざ誘おうと思うと情けないことに、緊張して声がかけられない。
自分に自信を持てなかったあの頃の俺は、いざとなるどうしても行動できない情けなヤツだった。
断られたらどうしよう……
迷惑がられたらどうしよう……
嫌われたらどうしよう……
そんな不安ばかりが頭をよぎり……そうなった時に受けるダメージが怖かった。
あの頃の俺は……すごく臆病モノだった。
そんなある日、英会話教室が終わったあと、みんな教材を片付けて席を立とうとしていた。ふと見ると、立花さんが友達と何やら話しながら笑っていた。
「ほら! 今、チャンスだ! 行けよ」
中川に肩を押されるも、足がすくんで近づけない。
「……」
「もーじれたいいなぁ」
そう言うと、中川は俺を押しのけ、つかつかと立花さんの所に歩み寄って行った。
「……えっ? あ……」
一瞬焦りが走る。
そんな俺にかまわず、中川は立花さんにの横にすっと近づく。
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