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ビーカーやシャーレーなど実験器具が並ぶ背の高い棚に囲まれ、床まで染み一つない真っ白で不健康で無機質な研究室の中で二人の男がテーブルに視線を落としながら歓声を響かせた。
「博士、ようやく完成です」
白衣の若者が額の汗を拭いながら防護メガネを持ち上げる。
博士と呼ばれた細身で背の曲がった老人が感動のあまり大きく息を吐いた。
「ああ、ここまで来るのに何年かかったじゃろうか?」
「ボクはまだ10年目ですから、博士一人の時も含めたら相当ですよ」
「なにぶん子供の頃からずっと考えてたからな。その為だけにワシの人生を捧げてきた」
「感謝に尽きます」
「いやいや、こちらこそありがとう。さぁ、早く、スイッチを入れてくれ。辛抱たまらん」
「分かりました。ではカウントは5分前からスタートします」
「よろしく頼む」
「はい、スタートしました」
「はああ、人生で一番永い5分になりそうじゃ」
「トイレでもいきますか?」
「バカいえ、緊張でゲロしかだせんわい」
「ははは、すよね。ボクも同じです。しかし全長1kmは世界最長ですよ。オーディエンスは呼ばなくて良かったのですか? きっと一面を飾れます」
「まだ成功すると決まっとらんじゃろ、記者会見はこの実験の後じゃな。それに万が一でも失敗して見ろ。我々は無事だが周囲に危険が及ぶ」
「しかし薬の調合とナノマシンの設計は初期段階からバグはありませんでした」
「だとしてもじゃ。最高秒速400メートルだから弾丸並だ。空中で爆発することだけは避けねばならん」
「そうでした。しかし博士。大丈夫そうです。核融合炉の廃熱に問題は見られません」
「量子の方はどうだ?」
「そちらも問題ありません。発射装置の熱量も正常値です」
「よろしい。ワシも薬による副作用はなさそうだ」
「ボクもです。多少の倦怠感はありますが……」
「それはただの疲労じゃな」
「それもそうですね。あ、第一から第三被験者OKです」
「うむ、重力の影響はどうだ? 太陽風も問題ないか?」
「はい、一番管は予定通り消費しましたが、7番、8番管でいけます」
「良い調子だ」
「ただ……」
「どうした?」
「植物の成長速度が異常に早いです」
「待て、モニターを確認する……ああ、これならワシの想定の範囲内じゃな」
「さすが博士、予期されていたのですね」
「当然じゃ。失敗は許されないからな」
「はい、水質と地質の変化も予定値、その他計器オールOK、カウント、あと10秒です」
「よし、カウントダウンを」
「10――9――8――7――」
「いよいよ、いよいよじゃ」
「6――5――4――」
「さぁ、早く」
「3――2――1……」
「博士! これは!」
「ま、まさか! すごいぞ!」
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