誓い

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男は刑務所の塀に沿って、歩み去る。 背中に漂う哀愁は、20年におよぶ刑罰の重みだけではないだろう。 まるで浦島太郎だ。 両親はすでに亡くなり、内縁の妻に2度と会えるわけもない。 行くあてなど、どこにも無いのだ。 来る前にスパコン<刑>で求めた、男の未来予測は驚くべきものだった。 あと1分だ。 俺は秒読み(カウントダウン)を始めた。 男が立ち止まり、こちらを振り返った。 「あと30秒」 深々とお辞儀をした男に、俺は手を振った。 別れの挨拶だ。 「10秒」 「5秒、4、3、……()けろ!」 また、俺は間に合わなかった。 大型トラックが横合いから突っ込んできて、男を塀に押し付け、潰した。 助手席から降りてきたのは、20歳の青年。 今日が誕生日だ。 青年は20年前の今日、男に殺された5歳の子が転生した姿だった。 彼にその記憶は、ない。 「あの子の墓は、反対方向だったな」 墓参りをすれば余命はあと30年、と計算結果が出ていた。 ほかの行動をとった場合の未来予測は、空白だったのだ。 <刑>でさえ予測できない不慮の事故だ。 助手席にいた青年は人間の法律でも、地獄の裁判でも、殺人罪には問われない。 5歳の男の子が、20年前に立てた、復讐の誓いが達成された瞬間であった。 俺は(きびす)を返し、人が集まる前に異相空間(トランジット)へと退避した。 (了)
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