17人が本棚に入れています
本棚に追加
誓い
俺はこの世の刑務所に来ていた。
十数年前、最初に担当したあの受刑者が出所するという。
俺に会いたいそうだ。
正門から出て来た、元・受刑者は変わり果てていた。
まだ40代だというのに、還暦をとっくに過ぎたような顔をしている。
声を掛けると、男はかすれ声で挨拶をし、頭を下げた。
「羅鬼課長、ご立派になられて。あなたのお陰で出所できました」
「ここでは、『アラキ』ですから。頼みますよ」
俺が新入りだったころの課長と課長代理は、仕事熱心が度を越していた。
不当な刑罰を囚人に課し、データの改ざんをして、懲戒処分となっている。
俺は単に内部告発者の一人となっただけだ。
腕時計を見る。
20年前、男の子が悲鳴を上げた時刻だ。
あと5分。
「この後は?」
「とりあえず実家に帰って。それから考えます」
男が刑期を終えられたのには、理由があった。
「あのな、墓参りに行けよ」
殺された子供が転生時の願い事として、男の刑期を20年とするよう望んだのだ。
理由は分からない。
男は「必ず行く」と誓いを立てた。
果たされない誓いほど、虚しいものはない。
あと2分30秒。
最初のコメントを投稿しよう!