召喚

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赤信号を無視して交差点に飛び込んだ車は、右折待ちの車にぶつかる。 音声はないが、運転者(ドライバー)はアクセルを目一杯踏み込んだままのようだ。 急に向きを変え、信号待ちの親子へ突っ込んでいく。 「危ない! 逃げろ」 ラキは叫んでも無駄なことを忘れているようだ。 言葉むなしく、男の子の体が宙を飛ぶ。 左折車両に衝突した乗用車は動きを止めたが、まだタイヤを空転させていた。 青みがかった白煙の中を突っ切って、数名の男性が走る。 彼らの向かう先には、アスファルトの上に横たわる男の子の姿があった。 非常に勇敢な青年がひとりいて、惨状を恐れもせずに近づいていく。 青年は倒れた子供の側にしゃがもうとして、急に跳び退いた。 男の子がバネのように体を起こし、立ち上がったからだ。 車に撥ねられ、10メートルも離れた場所に落ちた直後とは思えない状態だ。 青年が慎重に、子供の体のあちこちをはたく。 ふたりを取り囲む人々が驚きの表情を浮かべる中、母親が近づいてきた。 奇跡的に無傷だった男の子は、母親の血だらけの足を指さして、口を開いた。 5歳の子が、大人をおんぶしようとして、背中を向ける。 母親が抱きつくと、見物人の何人かが目元を押さえた。 新人りのラキも泣いている。 「家で何かあったのか」 「家では何も。自分の弟が、こんくらいん時に事故に遭って、で、弱いんす」 「分かるけどな。受刑者が戻ってくるから、顔拭け」 光の粒が部屋の中心に集まり、人の姿を作り上げる。 突然、血まみれの男が床に転がった。 「どうだ? 死ねたか」 男は返事をしない。 俺は怪我の様子から、全治3か月の重傷と推察した。 「残念だったな。まあ、怪我が治るまで刑の執行はない。ゆっくり休め」 ラキが救護班に男の収容を依頼した。 俺は取り替え子(チェンジリング)に使用中の、人造人間(ホムンクルス)を整備してもらうよう手配する。 新入りのラキは実物の人造人間(ホムンクルス)を見たがったが、俺は構わず次の準備を始めた。
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