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アホの始まり
兎にも角にもお金がない。明日も市場で人混みの中、行き交う人の尻を追いかける羽目になりそうだ。いや、勘違いされそうなので断っておくが、尻を追いかけるのは財布を頂戴するためだ。決してやましい気持ちはこれっぽっちもないんだ。マジで、ホントに。
俺がどれだけ嘆こうとも、腹は減るし金は飛ぶしでどうしようもなかった。
子供用のちょっとした魔法道具が置いてあるおもちゃ屋さんで働くも、人相が怖いという理由で泣き出されてしまった。ごめんな、これが普通の顔なんだ。店長のおじさんはとても優しい人だったから、俺をクビにするとき自分の腹でも切るかのような表情してたな。申し訳なくてこっちから「やめます、やめますから!」って言っちまった。
勤務していたアミュレット工場では、倉庫の在庫をちょっと拝借していたのがバレて即刻クビに。警備魔法なんて知らなかったぜ。なんせ俺はこれっぽっちも魔法が使えない魔法学校の劣等生だったからな。自慢の二年伸ばした襟足がちょっと焦げた気がするけど、また伸ばせばいい話だ。ポジティブシンキング大事。
現在働き先もなく、魔法も使えず、家賃も滞納している俺だが、まだまだ人生諦めちゃいない。一ついい考えがあるからだ。それは一週間後、この町で一斉に開かれる三つの宗教の祭典だ。正確には、たまたま祭りを行う周期が重なってしまった、いわば奇跡の祭典ってわけだが。このチャンスを逃せば、もう俺の生活は持たない。なんとしてでも成功させなければ……
そうと決まれば、作戦実行である。まずは、今着ている服を漂白する。次に、ちょっともったいない気がするが、コーヒーを一杯服に飲ませてやる。なに、これからお世話になる新たな衣装なのだから、これくらいいいってもんよ。そして、虫食いとほつれで傷ついているところ申し訳ないが、追い打ちをかけるようにそれを振り回す。さっきのコーヒーを返せ。味も分からぬお前に飲む価値はない。
遠心力で吹き飛んだコーヒーが部屋を彩る頃には、路地裏の孤児が着ていそうな薄茶色のボロい服が完成した。これを着て、路地にうずくまれば町のシスターが必ずやってくる。そして、かごの中からパンを取り出して一切れくれるのだ。
まずは、十字会のシスターをとことん使ってやろう。俺は知ってるぞ。神のご加護とかなんとか言っているが、その実売れ残ったアミュレットにテキトウに祈りだの何だの捧げたフリして売りさばいてんだ。なんせ、倉庫で製品をちょっと拝借しようと忍び込んだときに、ちょびひげ生やした会長みたいなやつが漏らしてんの聞いちまった。
「町の奴らもバカなものですねぇ…あんなものただの売れ残りに過ぎないのに。ちょっとシスターが祈ればボロ儲け。いい商売ですよ、アハハハ…」
何が、アハハだ。立派な詐欺じゃないか。と思ったが、絶賛盗み働き中な俺が言っても説得力はゼロだろう。そのときは何も言わず、だた取引が行われるのをじっと見ていた。
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