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作戦実行
昼の12時、路地裏にて。相変わらず、薄汚い布きれの塊がポツポツと転がっている。中には死体も混じっているだろう。そういう奴らは生き死にに関わらず闇市に売り飛ばされて、人体実験に使われるんだとよ。俺もこうなる一歩手前な訳だから人のこと言えたもんじゃねぇけどな。
シスターは決まって表通りからやってくる。だから、一番通りに近い場所で陣取ってやるぜ。そしたらお恵み一番乗りだからな。後はやつれた顔して俯いていれば完璧だ。最近は魔法栽培のもやしばっか食ってたから、体型は結構痩せてる方だと思う。
しかし、何で俺は魔法が使えないんだろうな。未だかつて見たことないぜ。俺以外に魔法使えないやつ。魔法さえ使えたら、もやしでもメロンでも何でも成長させ放題なのにな。それを売りさばけば、立派なビジネスだ。もちろん俺はそんなの使えないから、トマトとネギを家庭菜園してる。魔法なんかに頼らず、毎日水やりと健康チェックを欠かさずしてるんだぞ。なんせ、こいつらが死ねば俺も餓死するんだからな。まさに一蓮托生ってもんよ。
そうこうしてるうちに、歌声が聞こえてきた。教会の賛美だ。さあ、俺にお恵みを!パンの一かけ、いや丸々一個くれると嬉しいが…!
「あら、なんだかコーヒーのいい香りがしますわね」
やべ、完全に盲点だった。家にあって服を薄茶色に染められそうなものってことで、テキトウにコーヒーを染料にしちまったが、香りの問題は考えてなかったぜ。ましてや、路地に暮らすやつがコーヒーの匂いをプンプンさせてるなんて、どう考えたっておかしい。こんなことだったら、腐ったリンゴの絞り汁とかにすればよかったぜ。
しかし、ここで引き下がる俺様ではない。とっさに思いついた言い訳が、思考回路を巡る前に口をついて飛び出てしまった。
「た、たすけてください!表通りのカフェでコーヒーをぶっかけられて…やけどで全身熱くて仕方がないんです!」
我ながら苦しすぎる言い訳だ。もうちょっとマシな嘘はつけなかったのか?そもそも、熱くて仕方がないと訴えたところで、シスターはパンしか持っていないのだからどうにもならないのだ。そんな嘘でだませる訳が……
「まあ!かわいそうに……教会のお風呂で体を冷やして差し上げましょう」
……チョロ過ぎないか?なにはともあれ、教会に入れるというのはラッキーだ。今後の計画の参考にもなる。
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