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教会へ
シスターに連れられて町の外れにある十字会の教会にやってきた。十字会では確か犬が神聖な動物として崇められている。庭にリードで繋がれた犬がお利口にお座りしているのが見えた。外観は至ってシンプルで、真っ白な建物に庭には白い花が植えられている。確か白は十字会のイメージカラーで、よく町で販売している商品も真っ白なものが多い。だから、この中にあるはずなのだ。売れ残ったアミュレットやその他の雑貨を、白く染めるための作業場が。
「お風呂はこっちだから好きに使ってね」
よし来た。教会といえども住み込みで働いている人がいるらしく、その人たちのための風呂がある。おそらく牧師さん用だろう。男湯に来た俺は、真っ先に脱ぎ捨てられた服のカゴを漁った。いや、ソッチの趣味は全くないんだ。ホントに信じてくれ。
今気持ちよく風呂に入ってる牧師さんには申し訳ないが、この服は頂戴することにする。代わりと言ってはなんだが、世にも珍しい着るだけでコーヒーの香りに包まれるボロきれをプレゼントしてやろう。本来ならば、証拠を残さないようにコーヒー服は回収するべきなのだが、なんせ持っているだけで香ってしまうのだから仕方がない。この牧師が騒ぎ立てる前に、教会の全貌を暴くしかないのだ。
早速、牧師の着ていたカソックのように長いダボダボな服に腕を通す。走りづらいのが難点だが仕方がない。後は、堂々と牧師のフリして教会をくまなく探検してやる。
まず、怪しいのは地下だ。教会で販売しているアミュレットを一つでも手に入れることができれば、こっちのもんだ。塗装を剥がして、襟足を焦がしてまで手に入れた正規品のアミュレットと比べりゃ一発さ。あんなに苦労して手に入れたのに、俺が使っても何の効果も起こりやしなかった。不良品だったのか?それとも俺がポンコツだからなのか?
とにかく地下に繋がる階段があるはずだ。根拠はないが、こういう時は大体そういうものなのだ。
しばらく教会の中をうろうろしていると、風呂場の方向からキャーと甲高い叫び声が聞こえた。十中八九、どうすることもできなかった牧師が、俺のボロきれを身にまとって表に出てきたのだろう。ごめんな、お前にはちょっと小さかったよな。その証拠に、今俺が着てる服ダボダボだもん。
こうなっては時間がない。見つかるのも時間の問題なので、急いで施設を見て回らねば。そう思った矢先、何やら怪しげな呪文のような声が聞こえてきた。隣の部屋からだ。小窓からこっそり覗くと、手には緑色の液体が入った小瓶、床には魔方陣、そしてその真ん中には例のアミュレットが置いてあった。見つけたぞ。ここが詐欺グループの本拠地ってわけだな。
かといって、無力な俺がどうこうできる訳でもなく、ただ真っ黒なローブを着た男が魔方陣の真ん中にカラスの羽を置くのを眺めているしかなかった。その瞬間、すさまじい爆風とどす黒い光と共にアミュレットが変色していく。男は真っ黒に染まったアミュレットを手に取ると、バケツに沈める。次見たときには、アミュレットは町の移動販売でよく見る白の品物に様変わりしていた。
なんとなく、勘だけど、今俺はそれなりにヤバい現場を見てしまった気がする。こういう時は逃げるのが一番!長い裾をたくし上げて一目散に駆ける。裸同然であろう牧師と、怪しげなローブの男を残して俺は町に舞い戻った。
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