0人が本棚に入れています
本棚に追加
祈りとは
「わあ、おうちだ!すごい!」
ボロアパートを見てこんなに感激されるとは思ってもみなかった。しきりに辺りを見回しては、目を輝かせている。
「…そんで、お前さん名前は?」
「あたし、ルルっていうの!おじちゃんが、君はルールルって歌うからルルがいいって付けてくれたの!」
「おう、そうか」
あいにく、ガキの相手なんておもちゃ屋で働いていた時以来だ。まあ、人相のせいでクビになったがな。
「で、ペロっていうのかその犬」
「うん。最近、全然元気がないの。前は一緒にかけっこしてたんだよ!」
「そりゃ、楽しそうだな」
一度子供の機嫌を損ねると、機嫌を取るのは大変なのだ。ここは、建前でいいので合わせておいたほうが無難だろう。
「神父さん!ペロのために祈ってよ」
ただ、この悩みはどうするべきだろうか。そもそも祈りってなんだ。手を合わせて目を瞑る、ただそれだけならば誰でもできてしまうのだ。
なら、なぜ牧師という職がこの世に存在し続けるのか。回復魔法のため?いや、最近では一般人でも普通に使えるやつもいる。使い切りの回復魔法キットなんてものも発売されてたっけ。まあ、俺は商品のサポートがあっても相変わらず魔法は使えなかったがな。
回復キット然り、エレメンタル・カンパニーが出す商品はいつも飛ぶように売れるのだ。俺は、それも怪しいと目を付けているがな。まあ、何を言っても魔法の使えないやつの僻みだと捉えられてしまいそうなのでこれくらいにしておく。
───そうだ、それだ。商品だ。
俺が魔法を一切使えなくても、この世の俺以外の人はちょっとした魔法なら使えるのだ。個人差があるので、一概には言えないが商品のサポートがあれば回復くらいできるだろう。そう、祈ったフリしてエレメンタル・カンパニーの回復キットをこいつに渡せば一件落着なのである。そうと決まれば、早速実行だ。俺の盗みのスキル、お披露目といこうじゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!