217人が本棚に入れています
本棚に追加
゜゜゜
中学入学と同時に、文字通りの一目惚れをした。
とても恰好いい人だった。
既に最高学年だった彼はとても大人びて見えたし、本来だったら遠い雲の上の存在のように感じて近づけなかったと思う。
でも、俺は彼が自分と同じだって分かっていたから。
自分をきっと好きになってくれると信じていたから。
何としてでも彼に近づきたかったんだ。
「ね、楓先輩~俺と付き合いましょ?」
「んー千夏と付き合ってるから無理」
「またまたぁ……」
それより、文化祭のポスターのやつは?と楓先輩がさらっと話を変えてくる。
「許可もらいましたよ~ほら」
「なんだ、これを先に渡してよ」先輩は呆れたように笑って、俺から紙を受け取った。「やっと動き出せるな」
真剣な顔をする楓先輩は確かに恰好いいけれど、俺はつまらなかった。
俺のことなんて全く眼中にないし、楓先輩の頭の中は文化祭のことと千夏先輩のことで埋め尽くされている。
入学式で生徒会長として挨拶をしている楓先輩を見て一目惚れし、わざわざ自分も生徒会に入って、距離を詰めたのに一向に成果が出なかった。
楓先輩はゲイだ。
本人から直接聞いたわけではないけれど、俺は見た瞬間に自分と同じゲイだって分かったし、だから好きになった。
でも、楓先輩には俺以外に好きな人がいる。
それを、俺は生徒会に入ってから知った。
彼は幼馴染のノンケに恋をしていた。
ノンケに恋するなんて馬鹿だ。
ノンケは所詮ノンケだし、望みなんてない。
もし、仮に何かの間違いで付き合ったとしても、ノンケがこちらに興味をなくしたら捨てられる。
こんなに分かりやすい単純な話なのに……楓先輩は本当に馬鹿だ。
しかも、その楓先輩の幼馴染である千夏先輩はびっくりするくらい冴えない男。
見た目にも気遣ってなくて、頭もそんなに良くなさそうだし、何だか全体的に暗い。
そんな男のどこが良いのか、俺には全く理解できなかった。
千夏先輩が好きだという事実も本人から聞いたわけではない。
一度、生徒会室に千夏先輩が来たときの楓先輩の態度で分かった。
あの優しい笑顔と話し方。
俺と話す時とは全然違う。
俺が色々と楓先輩にアプローチをかける度に「千夏と付き合ってるから無理」と断られるのだが、それは楓先輩のジョーク。
でも、たぶん先輩も俺がゲイで自分が好かれていることに気付いているから実際、言葉通り「無理だよ」と暗に断られていたんだと思う。
絶対に俺の方が良いのに。
というか、ノンケじゃないというだけで俺の方がいい。
幼馴染の千夏先輩とは長い年月一緒にいたから色々思うところがあるのかもしれないけど、先輩は俺の良さに気づいていないだけだ。
いつか。
いつになるか分からないけれど。
楓先輩が俺を見てくれる日が来る、はず。
当時の俺は本気でそう信じていた。
最初のコメントを投稿しよう!