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 本当に好きになると見えなくなることがあるんだ。  そう気付いた時、怖くなった。  人を好きになるのが怖くなった。  見えなくなることへの恐怖が、恋をしたいという気持ちより大きくなってしまった。  実際、あれ以降まともな恋愛をしていない。  大学に入学してからは俺から別れを切り出すようになった。あいつのことがあってからフラれるのが怖くなった。だから、フラれる前に俺から別れを切り出す。  そんな姿勢で恋愛をしていて上手くいくわけがない。  自慢じゃないけど何もしなくても俺はモテるので、告白してきた女の子とは何度か付き合ったけど、長くは続かなかった。 「俺の彼女は浮気オッケーだから。大林もそういう女の子を見つけないと」 「いつも言ってるけど浮気オッケーってどういうことだよ。そんな女いる?」 「人間の器が大きいんだろうな~とにかく、俺がいくら浮気しても何も言ってこないし、超優しいし、可愛いし、エロいし、もう大好き!」  そんなに大好きなら浮気するなよ、なんて言葉はこいつに言ったところで無駄なので何も言わない。双方が満足しているなら俺がわざわざ口を出す必要もないし。 「なーんかさ、飲み足らなくね?」  居酒屋から出たところで、内海が言った。 「あんだけ飲んで飲み足らないはアル中だな」 「そんな飲んでねえよ。な、俺んちで飲み直さね?」 「余裕で終電なくなるわ」 「俺ん家泊まればいいじゃん。俺の家の方が会社近いし」 「明日、土曜日だぜ」  いいから、いいから~と俺は強制的に内海に引きずられていく。こいつといると俺がしっかりしないといけないから、キャラが不安定になってしまうのが嫌だった。 「あ、同居人いるけど気にするなよ」  マンションの部屋の前で内海が鍵を取り出しながら言った。 「えっ、同居人?同棲してんの」 「彼女じゃないって。ルームシェア。ルームメイトは男」  これだけ女癖悪くて好き放題してる男がわざわざ男とルームシェア?  何のために? 「ただいまーっと」  内海が玄関のドアを開けた。途端にドタバタと音がして、部屋の奥のドアが開くと何やら凄い勢いで人が飛び出してきた。 「翔?!おかえりなさい!早かったんだね、俺――」  同居人が帰ってきてわざわざお出迎えってどういうこと。  しかも、超嬉しそうに駆け寄ってきて。  「早かったね」って早くねえよ。今、何時だと思ってるんだ。  頭に浮かんだ様々な疑問はその男の顔を見た瞬間、吹っ飛んでしまった。 「三ノ輪――?」  お前、何でこんなところにいるんだ。
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