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「……大林、先輩?」
大人になった三ノ輪は俺が知っている三ノ輪よりも遥かに気弱そうで、突然現れた俺に怯えているようだった。高校生の頃から痩せてはいたが、身長も伸びてより一層ヒョロヒョロしているように見えるし、顔色も良くない。
笑えなかった。
「あら」それでも、俺は笑顔を作ることは出来た。「三ノ輪くん、俺の帰りを待ってたの?」
すうっと三ノ輪が息を吸う音が聞こえる。
混乱したように、俺と内海を交互に見ていた。
「おっと?お前ら、まさか知り合い?」
内海が驚いたように、俺たちを見る。
「中学の後輩だよ。しばらく会ってなかったからびっくりしたね」
びっくりしたね、というセリフは三ノ輪に言ったのだけど、彼は何も反応しなかった。反応出来なかった、が正しい表現かもしれない。
「マジ?そんなことあるんだな。ちょうどいいじゃん。3人で飲もうぜ」
「俺はいいけど、三ノ輪は嫌なんじゃないかな」思ったよりも嫌なセリフが口から零れてしまった。「三ノ輪くん、俺のこと、めちゃくちゃ嫌ってたから」
「え、そうなの?まぁこいつ、性格悪いからな」
「お前に言われたらおしまいだな」
「まぁいいじゃん。こんな偶然、なかなかないし。お前もいいだろ?」
「あ、ァ」三ノ輪は俯いて何とも言えない声を漏らした。「……うん、大丈夫」
「ほら、大丈夫だって」
どう見ても大丈夫には見えないが。
俺は苦笑して、頷いた。
「冷蔵庫、酒ある?」
「……な、ないよ。あるわけ、ないじゃん」
「あー、そっか、お前飲まないもんな。忘れてた」
三ノ輪はきゅっと眉を寄せると、そんな表情をこちらに見せないようにうつむいた。
「酒、買ってくるわー。大林、中で待ってて。すぐ戻ってくるから」
慌ただしく玄関のドアが閉まった。
しん、と静まりかえる空気。
「……中、入っていい?」
俺がにこやかにたずねると、三ノ輪はハッとしたように顔を上げると、黙って頷いた。
そして、俺が靴を脱いでいる間に、そそくさと部屋の奥へと入ってしまう。
相変わらず俺のこと、嫌いだね。
そんな怯えたようにオドオドしてどうしたの?
俺に会いたくないって言ってしまったから気まずいって思ってるの?
気にしなくていいのに。
だって、俺が気にしてるように見える?
見えるはずない。
見えないようにしてるんだから。
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