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゜゜゜  楓先輩を学校内で見かけたら、必ず話しかける。  と決めていた。  ちゃんと先輩の中に俺という存在を意識させるように。 「楓先輩~!!」 「お、三ノ輪」 「今日のお昼はパンですかー?」 「違うよ。ジュース買いに来ただけ」  楓先輩の隣には、いつも例の冴えない男がいる。 「こんにちは」  俺がニコッと笑って挨拶すると、千夏先輩は露骨に嫌な顔をした。 「ちょっと、無視ですかー?」  その分際で?  幼馴染だからというただそれだけで楓先輩の隣にいることが出来ている、その分際で。 「ほら、前にも会っただろ?生徒会に入ってくれた一年生。三ノ輪」  丁寧に楓先輩が紹介してくれる。  千夏先輩はため息をついて、俺から目をそらした。 「……覚えてるよ。千夏って名前っぽくないって言われた」  それ、まだ根に持ってるの?  何週間も前の出来事だけど。 「あはっ、覚えてくれてるんですね~嬉しいな」 「絶対思ってないだろ。やめろよ、その喋り方」 「千夏って名前、可愛くて良いと思いますよ。名前だけは」 「お前、ほんとさ……」  馬鹿みたいに、狙ったように、千夏先輩は傷ついてくれる。  たぶん自分に全く自信がないんだと思う。  だから、何でも出来て恰好いい楓先輩におんぶにだっこされてる状態。  恥ずかしくないのかな。  そんな自分が嫌にならないのかな。  変わろうと思わないのかな。 「はは、千夏って名前、可愛いよな。女の子が生まれると思って千夏のお母さんが千夏がお腹にいるときから千夏って呼んでたらしいよ」 「あーもう、千夏千夏うるせえな。その話すんなって」 「ふはは、ごめんごめん」  でも、先輩は好きなんですね。その人のこと。  何、その嬉しそうな顔。  変なの。 「俺の名前の由来、教えてあげよーか?」突然、背後から乱暴に肩を叩かれる。「あっ、もしかして、君が噂の生徒会のぶりっ子一年生?」  振り返ってその男を見た瞬間思った。  これは嫌いなタイプだ、と。  背が高くてスラっとスタイルは良いけど、しっかりした体つき。  ノリの軽さの割に、硬派な整った顔立ち。  笑っていても目が笑っていなくて、何を考えているのか分からない表情。   「ややこしいから、お前は絡んでくるな」 「千夏が言ってたのってこの子じゃないの?キモイぶりっ子一年って」 「おい!」  慌てる千夏先輩の横で爆笑する男。  楓先輩は呆れたように頭を抱えていた。  予想はしてたけどやっぱり陰で悪口言ってんだね、千夏先輩。 「へぇ、直接言わないで陰口って趣味悪いですねー」 「いや、陰口っていうか、別に直接でも言えるし」 「そっかー、俺もいつも直接言ってますもんね?」 「は?」  ほら、すぐに挑発に乗るよね。あなたは本当に頭が悪い。 「ははっ、千夏が一年生と喧嘩してんの超面白いじゃん。ねえ、何でわざわざ自分を苦しめる道を選ぶの?」 「え?」  名前も知らない長身の男はニコニコと俺の顔を見ていた。 「俺なら楽な道を選ぶけど」そして、チラッと腕時計に目をやる。「あっ、時間だ。俺、昼練行ってくるわ」  言いたいことだけ言って、軽快に走っていってしまった。 「あいつ、変だろ。気にしなくていいよ」楓先輩が苦笑しながら言った。「大林っていうんだけど。あれでも一応、バスケ部のキャプテン」 ――何でわざわざ自分を苦しめる道を選ぶの? ――俺なら楽な道を選ぶけど  イラついた。  何だ、全部分かってる、みたいなあの態度。    俺の大林先輩の印象は初めからあまり良くなかった。
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