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 中に入ると、三ノ輪はキッチンにいた。 「お水、いりますか」  話したくないくせに、話しかけてくる。 「どうしたの。気が利くじゃん。成長を感じる」  反応はなかった。  俺のこういうところが嫌いだったんだもんね。  知ってる。  ことん、と水が入ったグラスがソファ前のローテーブルに置かれた。「あの人、頭おかしいくらい飲むから。体に悪いって言ってたんですけど」 「今は言わないんだ?」 「え?」 「過去形だったから。体に悪いから、飲みすぎるのやめなって今は言わないの?」  三ノ輪は眉をひそめて俺から目を逸らした。「……言っても、仕方ないので」 「浮気も?」  三ノ輪が俺の目を初めてちゃんと見た。「うわき、?」 「そう、浮気。内海が浮気しても何も言わないのは言っても仕方がないから?」 「翔が、そう言ったんですか?」 「何を?」 「俺と翔が、付き合ってるって」 「それは聞いてないけど。浮気OKの彼女って言ってたから」 「あぁ、」三ノ輪は自嘲的に笑った。「あの人が男と付き合ってるなんて外で言うわけないからびっくりした……そう、ですね。浮気OKの彼女……」 「OKそうには見えないけどね」 「OKするしかないだけです」 「言っても仕方がないから?」 「そう、ですね。まさしく」  馬鹿らしいなと正直思った。  内海という男がどうしようもない人間であることは一目瞭然。何故、あんな男にとらわれて苦しんでいるのか、俺には分からない。 「内海より俺の方がいい男だと思うけど?」 「そうかもしれないですね」  三ノ輪は俺よりも大人になってしまっていた。  思わず口にしたセリフはただの負け惜しみ。  馬鹿らしいのは俺自身だった。
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