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間もなく、内海が買い出しから帰ってきた。
先程の内海と三ノ輪の会話から察していた通り、三ノ輪は下戸なようで一口も酒を飲まなかった。
そんな三ノ輪を「つまらないやつ」と内海が馬鹿にしたように笑い、三ノ輪は苦しそうに俯いた。もはや彼らからまともな恋人同士の甘い雰囲気は感じられず、心苦しいような嬉しいような、俺の心の中では複雑な感情が渦巻いていた。
元々、俺と内海は割と飲んだ状態だったので、まともに会話が出来たのはほんの数分。
気がついたら寝てしまっていた。
夜中に一度、目が覚めた。
俺と内海、三ノ輪は3人で雑魚寝をしていて、俺のすぐ左隣で内海がいびきをかいて寝ている。
そんな内海の背中に顔を埋めるように三ノ輪が寝ていた。
好き、なんだと思う。
三ノ輪は内海のことが、好きなんだと思う。
彼らがどんな出会い方をして、どんな関係性を築いてきたのか俺には分からない。
俺から見れば内海は典型的なクズとしか言いようがないが、俺の知らない魅力的な部分が彼にはきっとあるんだろう。
そして、きっとそれは俺にはないんだろう。
酒のせいなのかなんなのか、必要以上にネガティブな感情に襲われながら、また俺の意識は遠のいていった。
次に目が覚めた時はもう朝だった。
隣ではまだ内海が寝ている。三ノ輪はいない。
「何か、食べますか」
頭上からの声に驚いて顔を上げた。
三ノ輪が無表情に俺を見下ろしている。
「あ、ここ、朝食付き?」
「食パンとコーヒーくらいしかないですけど」
内海はちょっとやそっとじゃ起きないから放っておくように、と三ノ輪に言われ、俺はノロノロとダイニングテーブルの1席に誘われるままに座った。
昨晩の酒の後遺症に加え、寝起きということもあり、頭が上手く回らない。
数分後、目の前にマーガリンが塗られた食パンとヨーグルト、コーヒーが置かれた。「うわ、出来る嫁じゃん」
「安い男ですね」
「ここ、普通は喜ぶところなんだけど」
三ノ輪は何も答えずに俺の正面に座った。彼の目の前にはヨーグルトだけが置かれている。
「三ノ輪はパン食べないの?」
「朝、食べれないタイプなんで」
「体に良くないね」
「無理して食べる方が気分が悪くなります」
何を言ってもAIのような返答しか返ってこない。
俺の知っている三ノ輪は感情の表現がもっと豊かだった。口が悪くて直ぐにイライラするし、嬉しい顔、悲しい顔、彼の喜怒哀楽の表現は俺にとってはとても分かりやすかった。
彼が変わったのは大人になったからなのか。
よく分からない。
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