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「先輩は、変わらないですね」  ヨーグルトを食べながら、三ノ輪がポツリとつぶやいた。 「変わらない?」 「先輩の人生は楽しいですよね。きっと」 「楽しそうに見える?」 「えぇ」三ノ輪は寂しそうに笑った。「今も昔も、楽しそうに見えてます」 「ふーん……」  俺は変わったよ。  昔はちょっと楽しかった。でも、今はそんなに楽しくない。  変わったのをお前が知らないだけだよ。  俺を変えた張本人がお前なのに。 「いつもヘラヘラして、たくさん友達がいて、勉強も仕事も出来るんですよね、先輩は」 「なになに、急に俺に対する嫉妬なの?それ」 「違いますよ」  三ノ輪は真っ直ぐ俺を見て笑った。 「そんないつも楽しそうな先輩が、俺は今も昔も大嫌いなんです」  外はいい天気だった。  無駄に日差しが強くて、それが二日酔いの俺には眩し過ぎて辛い。  人生、全然楽しくない。  色んな女の子と付き合ってきたけど、誰とも上手くいかない。  初めて好きになった男に振られ、その次に好きになった男にははっきり嫌いだと言われた。  楽しいはずがない。  傍から見たら順風満帆な人生。  俺が欲深いだけなんだろうか。 「LINE、交換しようよ」  帰り際に俺は三ノ輪に言った。 「今さっき、面と向かって嫌いだって言われた相手によく連絡先聞けますね」 「俺のLINEの友達のほとんどが、きっと俺のこと嫌いだよ?」 「嫌われて辛くないんですか?」 「辛いって言ったら、好きになってくれる?」 「無理ですけど」  三ノ輪はポケットからゆっくりスマートフォンを取り出した。 「心配しなくても、連絡したりしないから」  三ノ輪が少し驚いたように目を見開く。 「嫌いな先輩からの連絡ほどダルいものはないんだよな。よく知ってるから」 「じゃあ、なん「連絡、万が一したくなったらしてきて」  万が一、という単語を強調した。 「面白いこと、言いますね」 「億が一?まぁなんでもいいけど」  三ノ輪は呆れたように笑った。「お元気で」 「ご丁寧にありがとう。貴方こそお元気で」  会話はそれだけ。  億が一、の希望を俺は捨てられなかった。  三ノ輪がどうしようもなくなった時、頼る相手は俺がいい。  どうしようもなくてもいい。  三ノ輪が喜怒哀楽の感情を何も考えずにむき出しに出来る人間、それがいつか俺になって欲しい。  何でも上手くいっているように見えて上手くいっていない人生。  最後に1つ、上手くいかないだろうか。
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