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「あなた、すぐ浮気されるでしょ」
占い師に言われた。
「それが嫌だからついつい束縛しちゃって、また浮気される」
「……束縛、」
何時に仕事終わる?とか明日は何する?とか。
そういう質問は束縛に当たるのだろうか。
「少なくとも、あなたが付き合うタイプの人にとっては窮屈ってことよ」
さすが占い師。
俺が聞かなくても質問に答えてくれる。
「でもね、もう仕方ないの」占い師はさらに続けた。「あなたはどう頑張っても浮気されやすい」
「仕方ない、つまり」
「ある程度は諦めるしかないってこと」
「そんなこと言っちゃうんですか」
「ここに励ましてもらいに来たの?」
「いや……」
占いは信じているわけでも信じていないわけでもなかった。今日、占いに立ち寄ったのは本当に仕事帰りの気まぐれで、たまたま目に入ったから。占い師に面と向かって占ってもらうのは今回が初めて。
「占い師はカウンセラーじゃないからね」
「そうですよね」
「負のオーラが強過ぎるのよ。いい運気を感じられない」
「暗いってことですか」
「あんたの性格なんか知らないわよ。ただ一緒にいると良くないことがたくさん起きそう」
散々な言われようだ。
まぁ確かに良いことはあまりない。
そろそろ時間だ。ありがとうございました、と立ち上がろうとしたそのとき、占い師が「少しでも人生を明るくしたいなら」と話を続けた。
「忘れられない人を忘れようとしないことね」
ビルを出て、スマートフォンの手帳アプリを開いた。明日の仕事の予定を確認して、ため息を1つ吐く。
明日は誕生日だ。
誰のって。俺の。
自分の誕生日を忘れる人がたまにいるようだが、俺は忘れたことはない。
忘れるタイプなら良かったんだけど。
去年の誕生日はとても楽しかった。
翔がお洒落なレストランを予約してくれて、一緒にバースデーディナーを食べ、プレゼントも貰った。
付き合って1年目、1番楽しい時期だった。
今年は、たぶん、何もない。
25歳の誕生日。もう子どもじゃない。
サプライズもいらないしプレゼントだって要らない。わざわざ出かけなくていいし、普段通りの夕飯でいい。
ただただ「お誕生日おめでとう」の一言が欲しいし、コンビニの小さなカップケーキでも何でもいいから2人で一緒に楽しく食べる、そんな空間が欲しい。
窮屈、だろうか。
俺は、窮屈な恋人だろうか。
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