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 あれよあれよという間に俺は車の助手席に乗せられる。 「あの、どこに、」 「俺のマンション。なに、ケーキ、外で食べたいの?」 「いや、俺、食欲とか、」 「お前、誕生日にケーキ食べなくていつケーキ食べんだよ。正月か?」 「いや、ほんとに」 「30分くらいかかるから、もし気分悪くなったら言えよ」  何も聞いちゃいない。  先輩は意外にも安全運転で車酔いの心配はなさそうだったが。 「何人も女の子乗せてるから、俺」 「え、?」 「今、意外に安全運転じゃんって思ってそうだったから」 「あぁ……」  はっきりした反応が出来なかった。  普通に「そうなんですね」でも良いような気がしたし、「何も思ってないですから」と冷たい対応をしても良かった。  でも、今の俺の感情は思ったよりも複雑で上手く処理が出来ない。結局、そのまま黙っておくことにした。    意外にも、先輩はその後、到着するまで無言だった。  あまり話す気分にはなれない俺にとっては助かった。 「はい、到着。降りてくださーい」  マンションの駐車場に車が停められる。先輩がテキパキと後部座席からケーキの箱とスーパーの袋を回収しているのを横目に、俺ものろのろと車から降りたけど、何故か足がふらついた。 「あら、危ない」先輩が荷物を持っていない方の腕で俺の腰を支える。「うわ、お前、ウエストほっそ……」 「すみません、大丈夫です」  俺はそっと先輩の腕を払った。  「うわ、」という先輩の言葉に何だか胸が苦しくなって、そして悲しくなる。魅力のない体、そう言われているようで。とんだ被害妄想。でも、今の俺にはもう自尊心の欠片もなかった。 「ケーキ食わして太らせるから覚悟しとけ。ほら、行くぞ」  聞いたら思わず拍子抜けしてしまう先輩の言葉。  別に自分が用意したケーキでもないのに偉そうな先輩は、さっさと歩き始めた。  車の中からはちゃんと見えていなかったけど、とてもいいマンションだと思う。もちろんオートロックで、広いロビー……立地も含め、家賃はいくらなんだろう……そう心配になりそうなくらい。先輩の部屋はさすがに最上階ではなかったけれど。 「三ノ輪の予想よりは綺麗なんじゃないかなと思う」  よく分からない表現をしながら、先輩が部屋のドアを開けた。  入ってみて、先輩の言っている意味が分かった。  おおざっぱそうな先輩のことだから、めちゃくちゃ散らかっていると思ったらそんなことはない。普通に整頓された部屋だった。 「ケーキは食後、冷蔵庫で冷やして食った方が旨いだろ。先に飯。この食材、俺が料理していい?まぁ嫌とは言わせないけど。風呂はすでに沸いてる。というわけで、お前は風呂に入ってこい。さぁ動け」 「は?は?え?」  キョロキョロしているのもつかの間、着替えらしきものとバスタオルが押し付けられ、脱衣所に連れていかれる。 「はい、ごゆっくりどうぞー」  ピシャッと扉が閉められた。  
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