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なに、それ。
わがままってなに?
ちょっと意味が分からないんだが。
とりあえず、やっぱり俺のことは嫌いらしい。
「……俺に電話をかけたのは何で?」
「なんで、だろ、先輩の優しさにただ縋りたかったのかな。俺、どうしようも無い人間だから」
「後悔してんの?」
「少しだけ。でも、今日、ケーキを一緒に食べてくれる人がいて良かったです」
見えない。
やっぱり見えなくて、俺は怖くなる。
三ノ輪の感情、俺の立場、ぼわぼわふわふわしていてよく見えない。
きっと恋をしているから、何も、見えない。
「取り乱してすみません。ケーキ食べましょう」
三ノ輪が俺を頼ってくれたのは、たまたま思い出しただけ?
前回、たまたま再会して、そういえばこんな先輩いたなって。他にゲイであることを言える友達もいなしって。そういうことなのか。
分からないな。
分からないなんてこと、普段ほぼないから怖い。
盲目だから。
俺、お前のことは何も分からないんだ。
モクモクと半分に切り分けたケーキを口に運ぶ三ノ輪を俺はずっと見ていた。
「お前、漫画みたいにさ、口の端にクリーム付けたりしないの?」
「……何歳ですか」
「俺が?」
「俺も先輩も」
「お前は25で俺は27」
「そういう意味じゃなくて。……ってか、先輩はもう誕生日終わったんですね」
一瞬迷った。
今、頭に浮かんだことを言おうか言わまいか。
でも、言わないことにした。
「うん、終わった」
「そっか」
「祝ってくれるつもりだった?」
「全然」
「来年は祝ってね」
「彼女にでも祝ってもらってください」
彼女、ね。
「彼氏でもいいんだけど?俺は」
三ノ輪の手の動きが止まる。「からかうの、やめてください。マジで」
「からかってないけど」
三ノ輪はため息をついて、それ以上何も言わなかった。
彼氏でもいいけど、男なら誰でもいいってわけではないんだけどな。
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