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黙々と、段ボールに荷物を詰めていく。
と言っても、そんな大量の荷物があるわけじゃない。ほとんどが服、そして多少の書籍類。だから、思ったよりもすぐに荷物の整理は出来た。
その他要らないものはゴミ袋に詰めて玄関に置いておこう。「ゴミの日に捨てておいてね」って気持ちくらいは伝わるはず。
寝室には入らなかった。
元々、寝室に俺の荷物はないし、入る必要もなかったんだけど。
あらかた荷物の整理を終えた俺は、最後に腕時計を外してダイニングテーブルの上に置いた。
翔からのプレゼント。結構、高い時計。
売れば高くなるんじゃないかな。だから、あげる。
こんな時にも「これでいいのか」と一瞬でも考えてしまう自分が本当に嫌になる。
どう考えても、翔は俺に未練なんてない。何なら邪魔だ、早く出ていってくれってくらいに思ってるだろう。だから、迷う余地なんかないはず。
それなのに、俺はこんなにも未練タラタラ。情けない。
「何でかなぁ……」
翔も初めの頃は、俺のことを本当に好きだったと思う。ちゃんと愛されていた。大切にしてくれた。
いつからこんな感じになっちゃったのかな。
本当に翔だけが悪いのかな。
俺に悪いところがあるんじゃないかな。俺の悪いところが改善されれば、また翔は俺のことを見てくれたり……なんて、そういうところだよ。俺が悪い男とばかり付き合っちゃう原因って。そろそろ学ばないと。
段ボールを何回かに分けて、車に乗せて準備完了。
何だかんだのんびりしていたら、もう15時だ。こんな気分の悪くなる部屋、早く出よう。
先輩のマンションに着いて、とりあえず段ボール箱を全て運び込んだ。荷物の整理をしたいところだけど、人の家だから勝手にどこかに収納するわけにいかない。大人しく、先輩の帰りを待つことにする。
ソファに座り、ずっと見ていなかったスマホを確認すると、正午に先輩からメッセージが来ていた。
『定時で帰れそうやっほーーーーい!!お引越しは無事終わった?』
あの人はLINEのメッセージもうるさい。
とりあえず、車と段ボールのお礼を書いておく。
夜ご飯、作ったら先輩食べるだろうか。
異常な程に喜びそうで、それはそれで鬱陶しい気もするけど……住まいを借りるわけだから出来るかぎりの家事はするべきだ。
冷蔵庫の食材を見て、何を作ろうか考える。
先輩の好きな食べ物とか、嫌いな食べ物とか……全く知らないな。
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