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「——ただいま」
「うわぁぁっ!」
背後から突然声をかけられた俺は、持っていたおたまを落としそうになる。
「お前、マジでばかおもろー」
当の本人である大林先輩は、この世で一番無責任な笑顔。
「何で、静かに入ってくるんですか!!マジで、心臓に悪い!!」
「びっくりするかなーって。鍵開ける音とかで気付いてると思ったら、何か全然こっち見ないからさ」
「俺、驚かされるのとかマジで苦手なんでやめてください」
「人生サバイバル。いつ何に襲われるか分からん。背後には注意しとけ」
「ここ、家の中ですから」
「ねぇ」先輩が鍋の中を覗き込んだ。「それ、肉じゃが……?」
めちゃくちゃ嫌そうに目を細める。
「え、嫌いですか」
「実は……」
「あぁ……ごめんなさい、これ、俺が食べるんで」
「……超好き。全部俺が食う」
くっそ腹立つ。何なんだよ!
「お前の分、ねえから」などとまだ訳のわからないことを言ってる先輩を無視して、俺は白菜とツナの煮物の味見をする。……うん、いい感じ。
「俺も味見したい」アーンと口を開ける先輩も無視。
「風呂、溜まってるんで、入るなら入ってください」
「んー、無理。お腹空いた。先、食べる」
「じゃあ、すぐにお味噌汁作るんで、座って待っててください」
「何か手伝えることある?」
「……じゃあ、出来上がってるおかずをお皿によそって、テーブルに運んでくれますか」
「はいはーい」
先輩がやっと俺の背後から離れてくれた。
「マジでどれも旨そうなんだよね……天才でしょ……」
俺の渾身の和食メニューを前にして、先輩は想像通り感激してくれた。
「お口に合えばいいですが」
「そうねぇ、さっき味見させてくれなかったからねえ」
「……食べずに寝ますか?」
「はい、いただきまーす」
先輩はさっさと肉じゃがを口に運んだ。「やば、うっま!!」
「本当は糸蒟蒻入れたかったんですけど、なかったので」
「やめとけ、そんなの入れたら完璧になるだろ」
「完璧になったら駄目なんですか?」
「ちょっと欠点があった方が可愛いんだよ」全く意味が分からない。「ほら、俺って完璧すぎて可愛くないじゃん?」
やっぱり意味が分からない。
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