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先輩が俺の方を振り向いてくれることはないってことくらい、本当は分かっていた。
どう考えても先輩たちの物語の中で俺は脇役、しかも悪役だったし、急に選手交代!俺が主役!なんて展開はあり得ない。
全部分かってはいたけど、俺は俺自身しか動かせないわけで、自分が主人公だって勘違いしてしまう時もあるんだ。それを中二病と言うならそうなのかもしれないし、こんなことを考えている今も中二病を引きづった可哀想な高校生なのかもしれない。
とにかく、先輩たちの物語の中で俺の出番はなくなっちゃったけど、それでも俺は生きなくちゃいけない。出番を探さなきゃいけない。
それはなかなかの地獄だった。
「あっ、楓大好き人間の三ノ輪くんじゃないですか~!ねぇ、元気?」
予想外の展開という意味では今、俺は主人公かもしれないと思った。
大きな声をだしながらこちらに向かって歩いてくる男。
先程まで文字を書く音すら少し気になるくらいの静寂に包まれていた市立図書館の雰囲気は、彼によって盛大にぶち壊されていた。
「大林、先輩……」
「声、ちっさ!あのブリブリしてた三ノ輪くんはどこに行ったの?」
「ここ、図書館なんで静かにしてください」
「おっと失礼」
彼は全く反省していない様子で、俺の隣の椅子にドカッと腰かける。
俺はこの人が嫌いだ。
いつもヘラヘラしていて馬鹿っぽいのに、何を考えているのかは分かりにくいし、何を言ってもサラッと流されてしまう。たまに、俺を憐れんだ目で見てくるのも嫌でたまらない。この人の作られたテンション、笑顔、発言、全てが受け付けない。顔は恰好良い方なんだろうけど、全然好みじゃないし、俺よりも身長が高いという事実すら腹が立つ。
「あのね、そんなに睨まないでもらえます?俺がヤンキーだったら今頃ボコられてるよ、お前」
「先輩、図書館なんか来るんですか」
「俺のこと何だと思ってんの。先輩、受験生なんだぞ?」
「先輩が行ける大学ってあるんですか」
「いちいち、人を馬鹿にしないと生きていけないのかね、君は」
「……きっも」
「あー!キモいって言う方がキモいんだー!」
突然の大声に俺は飛び上がった。「シーッ!静かにっ!」
周りの人もジロっとこちらを睨んでくる。
「チッ、静寂がいいなら家帰れよ。おい、マック行くぞ。マック」
「行きませんから。俺、勉強中です」
「安心しろ。俺は高1の時、一切勉強しなかったが、今こうして立派に生きている」
「あんたみたいにならないように、勉強してるんですよ。つか、あんたこそ受験生だろ、勉強しろよ」
「腹が減ってはセックスは出来ぬと言うだろう」
「面白くない。キモいのであっち行ってください」
「今ここで、大声で三ノ輪の名前と学校名言ってもいい?」
「……荷物片づけるので静かに待っていてください」
とんだ災難だ。
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