1.大魔法使いの孫

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1.大魔法使いの孫

 『時空魔法は、ハイレベルの魔法になります。なぜかわかりますか…ええ、そうです。時間や空間を扱うからです。時間を過去に戻す、時間を未来に進める、時空を歪める、次元を飛び越える、…等々、術者の精神力にも体力にも体にも多大な影響を及ぼします。ですから、使うに当たっては十分以上の注意が必要です。』  そう教えてくださったのは、目の前の先生でした。  ああ、本当にそうでした。  でも、この子を助けたかったんです。  池に落ちかけた子猫。  だって、まだ、目も開いていない、生まれたばかりの子だったんです。  このまま落ちてしまったら、絶対に死んでしまうじゃないですか。  そんなの、絶対に嫌だったんです。  ほんのちょっと、あと5分だけ早く気がつけば、この子を助けてあげられると思ったんです!  だから、後悔はしていません。  ええ、していませんとも!  すべては、私が未熟故に、起こるべくして起こった結果なんです。  でも、だからって、こんなことになるとは思わなかったんです。  目の前の先生に向かって、よたよた歩きの子猫―私は、懸命に訴えた。  でも、私の言葉は声にならず、意味のないみゃあみゃあみゃあとか細い鳴き声にしかならない。  よって、如何に優秀な先生といえど、分かるわけもない。  「つまり、あなた方の話をまとめると、この、子猫が溺れていて、それを助けようとしたメイさんが何か魔法を使ったらしい、と。」    「はい。」  頷いたのは、同じ魔法使いのアリスだ。  「本当に一瞬のことで、もう、何をどうかしたのか全く分からないんです。」  そう言ったのは、エクソシストの海だ。  その海の足元には、丸くなって寝こけている私がいる。  先生はみゃあみゃあみゃあみゃあ泣き続ける子猫とすやすや眠る私を交互に見ると、ため息をついて言った。  「どうやらいくつかの魔法をほぼ同時に発動してしまったようですね。」  「そんなこと、できるんですか?」  アリスが尋ねた。  「ええ、熟練の魔法使いであれば、いくつかの魔法を組み合わせて使うことなど、造作もないことです。」  「でも、メイは…」  海は言葉を濁した。  「そうよねぇ…」  アリスも同じだ。  海は特別進路指導クラスー通称特進クラスのトップで、アリスも成績上位で、対する私は下から数えた方が早い劣等生だ。  「まあ、熟練と言うよりは未熟ですね…」  先生は、そこまではっきり言わなくてもいいじゃない!  「流石は大魔法使いセドリック・ボルダーの孫と言うべきか…いらないところでハイレベル魔法を発動させるなんて、才能があるんだかないんだか…」    そんなとこ、感心しないでいいから、助けてください!  私は叫んだ。  が、響き渡るのはみゃあみゃあみゃあみゃあという、猫の鳴き声だけ。  「あらあら、さっきから元気よく鳴いているのね。安心して、お腹が空いたのかしら?」  そう言って、先生は私をのぞき込んだ。  そして、息をのんだ。  「…?え?まさか…こっちがメイさん?」  はい、大正解です。  私、真行寺メイがなぜかこの子猫なんです。  どうしてこうなったか、なんてわかりはしません。  何しろ、未熟者ですから!  あ、子猫が溺れてる!  助けなきゃ!  間に合わない!  あと、5分、早ければ!  そしたら、助けられるのに!  そう思ったのが、最後です。  気がついたら、私は子猫の中にいました。    
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