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2.子猫と私と
あと5分あれば、助けられるのに。
一瞬で子猫のところへ飛び込めれば、間に合うのに。
ただ、そう思っただけで、気がついたら私は別の何かになっていた。
「メイ、メイ!しっかりしろ!」
「メイ、どうしたの?目を開けて!」
目を開けるー?
何のことだろうと思って、私は目を開けようとしたけれど、どういう訳か全く目が開かない。
おまけに二人が必死で名前を呼ぶから返事をしているのだけれど、『みゃあ』と言う猫の声だけ。
なんか変だ。
それがあの、溺れかけた子猫なのだとわかったのは、海やアリスの呼びかけに答えているはずの声が、『みゃあ』だからだ。
でも、二人には私の声なんて聞こえていないかのように、ただ、必死になって私の名前を呼んでいた。
でも、問題なのは、そんなことじゃない。
私が子猫になっちゃったってことは、子猫は死んじゃたったのかな。
いやいや、そもそも、私がどうなったのか。
海やアリスが必死に私の名前を呼んでいることは、なんとなく分かる。
もしかして、私が死んじゃたったのかな。
まだ、15歳なのに。
こんなに呆気なく。
『大魔法使いセドリックの孫なのにねぇ。』と、何かとため息をつかれる存在のままで。
『ハ○ー・○ッター』のお父さんみたいにどこにいるのか知らないけど悪い魔法使いと戦って死んだわけでもなく、溺れかけた子猫と一緒に死んだなんて、『大魔法使い』のおじいちゃんも草葉の陰で泣いてるだろうなぁ。
「アリス、気を失ってるだけみたいだ。」
「ほんとだ。息してる!」
あ、よかった。
私、生きてるんだって。
え、でも、じゃあ、『気を失ってる』私って何?
私はここにいるのに。
「とにかく、学院に連れていこう。」
「そうね、いそぎましょう!」
え、ちょっと待って!
私も連れて行ってよ。
こんなところに一人、おいて行かないでよ!
と、思い切り叫んだ。
「みゃああああ」
ふわりと体が浮き上がり、柔らかく抱き締められた。
「そうそう、ごめんね。こんなところにひとりはいやだよね。せっかくメイが命を掛けて助けたんだもの、あなたも一緒に行こうね。」
いや、今、『息してる』って言ったよね。
私、生きてるよね。
勝手に私のこと、死んだことにしないでよね。
「ん?」
アリスが小さく声をもらした。
「どうしてかしら?なんだかイラッとしたような…気のせいかな。」
それはお互い様だよね
同じ魔法使いの末裔ってことで、何かと突っかかってくるし。
私だって、アリスに同情してほしくないし。
でも、今、私は歩くことさえままならない。
目は見えないし、身体は自由に動かないし、喋れないしの三重苦となると、シャクだけれど、ここはアリスに頼るしかない。
とにかく、私に何が起こっているのか知ることが最優先事項だ。
そう言うわけで、私はおとなしくアリスの腕に収まることにした。
でも、よくよく考えてみれば、猫の私をアリスが連れて行くってことは、気を失ってる私を連れていこうとしているのは、海ってことになる。
それを想像して、ちょっとにやけてしまった。
だって、海は結構イケメンで、たまに他の学校の生徒から手紙をもらったり、待ち伏せされて告白されたりしている。
で、私はおじいちゃんが外国人のクォーターでまあまあな顔立ちをしているらしい。
そんな私をお姫様抱っこしているなんて、なんだか童話の挿絵みたいでちょっと照れくさい。
まあ、アリスが日仏のハーフでモデルをやっていることは、とりあえずおいておくけど。
最も、あとで聞いたら、おんぶだったんだけどね。
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