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3.子猫、のち、人間
そりゃあ、よくて可もなく不可もなくの成績、ちょっとサボれば下から数えた方が早い成績だけど、それでも追試はうけたことない。
私にだってプライドはあるから、『大魔法使いセドリック』の孫として、追試や留年だけはしないと決めていた。
でも、今週以内に元に戻れる自信がない。
いや、それ以前にこんな間抜けな状況になるなんて、本当に自分でも才能のなさに呆れかえるほかはない。
「あ、でも、先生、メイは人間としての意識は保っているのでしょうか?」
海の声に、私は顔を上げた。
「そうですねぇ…何かに入れ替わった場合は大抵は意識はあるはずです。」
先生は答えた。
「それなら…メイはこちらの言うことは、理解できるはずですよね?」
「そうですね。なるほど…メイさんにもう一度、その時の状況を思い出させて、魔法を解除することは可能かもしれないですね。」
「でも、呪文の詠唱が猫のままでは出来ないのではないでしょうか?」
アリスが言った。
「海さんもアリスさんもメイさんが呪文の詠唱をしたのを聞きましたか?」
「いいえ。僕は聞いてません。」
「私も…メイの叫び声しか…」
叫んだんじゃなくて、目の前の状況に声が出ちゃっただけなんだけど。
「それなら、おそらくはイメージとしての発動でしょう。溺れる子猫を見て…」
先生が子猫の私の背を落ち着かせるかのようにそっと撫でた。
それまで、落ち着かなかった心が少しずつ凪いで行く。
先生の囁くような声が、小さな子猫の体にしみこむように響いている
「助けないと―と、思って…」
助けなきゃ、と思った。
あんな小さな子が死んでしまうなんて、可愛そうと思った。
「でも、少し離れたところにいたのでしょうね…」
走っても間に合わない、と思った。
だから、あと5分、早く気がつけば、と思った。
そうだ、あの時、時間が5分だけ、戻ったんだ。
それで、溺れていた子猫は池に落ちる寸前になったんだ。
「今すぐ、そこに飛んでいければ、とでも思ったのでしょうか…」
ああ、そうだ。
海が子猫に向かって走り出したのが、目の端に見えたけど、でも、間に合うか不安で、この手が届けばいいと思った。
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