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俺は神だ。黒い布を身に纏って大きな鎌を持っている。そう人を生から死に導く仕事をする死神だ。
今日は春野哲也という男の子の命を取りに来た。哲也くんは小学生で心臓に生まれつきの欠陥を持っている。本当はこの世に生まれない命だったんだが神の気まぐれで8年前の8月6日に生を受けた。俺は思う。どうせ長く生きることの出来ない人生だったら初めから命なんて与えたらいけないと。
今は8月の頭だ。だからもう少しで哲也くんの誕生日だ。神が俺に言ったのは9歳になるまでに命を取って天国に連れていくこと。俺は天国の入り口までしか行けないが扉を開けて中に入ると誰しもが幸せな気持ちになれるんだという。幸せの概念は人それぞれだ。音楽だったり本だったり花だったり、たぶん哲也くんみたいな小さい子だったら乗り物だろう。天国でスポーツカーや飛行機に乗ってほしいと思う。
哲也くんは駅から徒歩20分の場所にある大学病院に入院中だ。心電図や点滴に繋がれて身体の近くでは機械が常にピー、ピーと鳴っている。だが意識不明というわけではない。意思疎通も出来るし入院食も食べられる。
俺は小さい子の命を取るのは得意ではない。死神だから仕方ないがちょっと哲也くんのことを知ってみようと思った。顔が俺に似ているからだろう。他人の気がしなかった。
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