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次の日、私は朝早く起きて二人分の
朝食を用意していた。
小さめのお鍋に出来たばかりのお味噌汁を
お玉で少しすくうと
小皿に移して味を確認する。
「うん!美味しい」
朝はやっぱりお味噌汁よね...
母直伝の昆布だしの味噌汁は
昨夜からの胸の高鳴りを
優しく取り除いてくれるようだ。
きっとこれは恋なんかじゃない。
ただ動揺しているだけだ。
自分にそう言い聞かせながら
私は胸を締め付ける原因から
目を背けている。
私は小さなダイニングテーブルの上に
出来たばかりの朝食を二人分並べると
エプロンを脱いだ。
「櫻ちゃん、起こしに行くかな...」
櫻介の部屋へ向かおうとしてふと
足を止めた。
そして、なぜか自分の身なりが気になり
洗面所に向かうと化粧で顔を整える。
オレンジ色のリップを塗りながら
ちょっとリップの色地味かな...
そんなことを考えているとふと自分の異変に気付く。
なんで櫻ちゃんを呼びに行くだけなのに
私はこんなに化粧をしているのだろう...
急にそんな自分が恥ずかしくなり
ポーチに化粧道具をしまいこむと
隣の嚶ちゃんの部屋へと向かった。
もちろん、ベランダの穴からだ。
一応、トントンとノックをして
窓を開けるとすでに起きてワイシャツに
ネクタイを通している櫻ちゃんが
ビックリした様子でその手を止めた。
「羽菜ちゃん、おはよう。
こんな朝からどうしたの?」
「会社行くの?熱は下がったの?
しんどかったら今日くらい仕事休ませてもらったら?」
私は櫻ちゃんの身体が心配で
櫻ちゃんの質問を無視して、矢継ぎ早に問いかけた。
「ありがとう。
羽菜ちゃんのおかげで熱は下がったから大丈夫だよ!
それに今日は大事な商談があるから
休めないよ」
大事な商談か...
ついこの間まで学生だった櫻ちゃんが
急に大人の男性のような口振りに
少し寂しさを覚える。
「そっか...
朝ごはん二人分作ったから
食べて行く時間ある?」
「えっ!ほんと!?
食べる!!
ちょっ、ちょっと髪だけ整えてくるから!」
慌てて洗面所へと向かう櫻ちゃんは
途中、私が紐でまとめておいた少年ジャンプの本の束に蹴躓く。
「イテッ」と足を庇いながらも
洗面所に急いで向かう櫻ちゃんに
私は思わず、くすりと笑みが溢れた。
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