プロポーズ会議&野郎だらけの同窓会

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プロポーズ会議&野郎だらけの同窓会

深夜0時を回った居酒屋。 ちょうど客が入れ替わる頃らしく、他のテーブルは誰もいない。客は俺と向かいに座る芳樹だけ。 焼き鳥も、枝豆も、揚げ出し豆腐も食べ終わった。バイトの若い女性が皿を全部持っていく。 俺は飲みかけのビールジョッキを手にしたまま、テーブルに突っ伏した。ほっぺたをぴったりくっつける。 テーブルって、結構ひんやりしているなあ。 あいつの太ももみたいだ。 早く耳垢たまらないかな。また膝枕で耳掃除してもらいてえ……。どさくさまぎれにお触りできるからいいんだよな。 今日はいっぱい人が集まったなあ。 俺がSNSで『そろそろ結婚してえなあ』って言ったら、あっという間にみんなに伝わり『明良あきらのプロポーズ会議&野郎だらけの同窓会』が開催された。 目を閉じると、さっきまでいっしょに飲んでいた同級生たちの言葉が頭に響く。 「やっぱ、バラの花束だよ。歳の数だけそろえりゃいいんだよ」 「ダイヤの指輪を用意したけど、サイズがゆるくて、彼女にビンタされた奴、知ってる」 「焦って『けっきょんしてください』って、言った奴もいるぞ」 「いいか、明良(あきら)! プロポーズとちるなよ。女っていうのはなあ、ずーっと根に持つんだ。あんなのありえないってさ……」 俺は息を吐いた。どいつもこいつも酒の肴にしやがって。 「相談してドツボにはまった……」 「みんな、明良のことが心配なんだよ。見た目イケメンなのに、臆病だし、全体的に頼りないし」 「それって全然ほめてねーよ!」 「顔はほめただろ」 「うれしくねー。顔だけ取り柄なんて、男としてイヤだー。もう29歳なのに……」 俺は顔をあげて、テーブルの向こうに座る芳樹(よしき)を睨みつけた。酒飲んでいるから迫力ないだろうけど。 芳樹は足を組んで座ってハイボールを飲んでいる。 この、既婚者だからって余裕かましているな。 そのとき、照明に照らされて、芳樹が薬指にはめている銀色の指輪が光った。 綺麗だな……。悔しいけど。 ひとり暮らしの俺は、この店を出たらアパートの冷たいベッドにダイブする。 芳樹の家では奥さんが待っている。きっと玄関で大の字になっても、水を運んできてくれる優しい奥さんだろう。 俺も、もう少しで手に入れられる。 あいつのことだから、俺が帰ってきたらうれしそうに小走りでやって来るんだろうな。 『おかえり、あっちゃん。お疲れさま』ってさ。 エプロンつけて、いつもみたいに髪を横に縛って。 定番だけど言ってくれるかな。 『お風呂にする? 晩ご飯にする?』 そしたら、俺は鞄を放り投げて、ネクタイゆるめてあいつにチューをして……。 「へへへへ~」 「どうした、明良?」 「もちろん、きみをいただきますよ~。あっちゃんはお腹ペコペコでしゅよ~」 「うわあ、完全に酔っぱらったな」 俺、酔ってるのか? 楽しいこと考えてるだけなんだけど。 なんか座りにくくなったなと思ったら、椅子から落ちそうになった。芳樹が立ち上がり、俺を支えた。 芳樹に肩を支えてもらいながら、俺は店を出た。 「明良、重い! 息くさい! 顔離せ」 「幸せにするよ~」 「はいはい、わかった。幸せにするのは俺じゃなくて彼女だろ?」 「おう! 世界一幸せな女にするんだ。よし今夜は祝い酒だ!」 「ははは、祝い酒は結婚してからだろ」 そうだ。俺はあいつと結婚するんだ。 ふらふら歩きながら、俺はうなずいた。 あいつ、プロポーズしたらどんな顔するんだろう。かなり待たせたから、「遅いよ」って怒るかな。泣いちゃうかな。 まあ、どっちでもいいや。思いきり抱きしめればいいんだから。 今夜の街のネオンは、やけにキラキラしていた。
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